2014.4.18
東京混声合唱団第234回定期演奏会
世界を翔る若き泰斗山田和樹、東混音楽監督就任記念
報告:三木隆二郎/2階 C1列6番(2階席1列目の正面)
投稿日:2014.04.18
この演奏会は、このたび4月に東混の音楽監督に就任する山田和樹の就任記念コンサートでした。そのお祝いの雰囲気は既に開場前の長いお客様の列で象徴されており、開場してからもホワイエでのお客様同士の会話はさざめき、これから始まる音楽会への期待感が醸し出されているかのようでした。
■J.S.バッハ:モテット 〈来たれ、イエスよ、来たれ〉
舞台に登場した白いロングドレスに身を包んだ女性団員がまず前列に19人、後列には黒のタキシード姿の男性団員が14人並びます。そして真ん中にはオルガンが据えられており、拍手に迎えられてオルガン奏者浅井美紀と指揮者の山田和樹が登場です。
モテットとはルネサンスの合唱作品の主流でありバロック時代には衰微していたところ、バッハは宗教音楽としてのモテットを宗教行事のためではなく告別式という具体的な目的のために作曲されたようです。(松原千振のプログラムノートより)
肉体の滅びの苦しさと、キリストの教えに救いを求める精神性を表現した合唱の響きは切々と研ぎ澄まされていました。
ただ、その合唱のハーモニーとオルガンの揺れる音調とがやや調和していないように思われるタイミングもあり、アカペラの合唱の純粋な歌声ならどうだったのかという思いも致しました。
■ルネ・クラウセン:二重合唱のためのミサ曲(2011)
このミサ曲が含まれる合唱作品集が昨年の合唱部門でグラミー賞を受賞すると言うほどこの作曲者、クラウセンの人気は高いようですが、これまでミネソタ州の合唱団を20年以上にわたり率いてきたという教育者兼合唱団指揮者でもあるとのことです。(向井大策のプログラムノートより)
確かにキリエの歌声が第一生命ホールに響き渡ったその瞬間、この作曲家の音楽空間に引きこまれていきました。まさに山田和樹/東混の実力がいかんなく発揮された演奏でした。東混のソリストを務めた団員だけでなく全体の歌唱力がパワー全開になるかと思えば微妙なハーモニーに至るまで磨き抜かれた繊細さが感じられました。
また、ダイナミックな力強さから細やかな表情に至るまでを自然な流れとして歌わせる山田和樹の音楽表現には、かつてのように手を振り回すような指揮のスタイルは影を潜め、シンプルにしかも大人の雰囲気を感じさせる的確な指揮ぶりに成長してきていることに驚かされました。
■間宮芳生:合唱のためのコンポジション第5番「鳥獣戯画」(1966)
合唱作品《鳥獣戯画》はまさに有名な中世の美術作品から想を得たものです。1966年ベルガモ映画祭で金賞を獲得した記録映画「鳥獣戯画」のために作曲されたもので、その映画は「日本の古い絵巻を素材とした"オペラ映画"」と紹介されたようです。(間宮芳夫のプログラムノートより)
この作品は私がこれまでに聴いた合唱曲のどれよりも面白い、まさに今晩の白眉と言ってよいものでした。
まず女性合唱団員は二階席から登場し正面のステージ上に陣取ります。そして男声合唱団員はステージの奥の山台の上に腰かけます。前にはコントラバス奏者1名と2人の奏者がパーカッションを様々に並べ立てて座り、何と指揮者はステージを降りて、客席の最前列の前に立ち、上を向いて指揮をするのです。
絵巻の「鳥獣戯画」にはご案内の通り、中世の人のような動物の姿が描かれているのですが、この合唱曲には原初の室町時代の人々のエネルギーが合唱作品として昇華されています。
中世には人々と動物たちの距離も近かったことを想像させるような、奇声や突然の笑い声、更には打楽器で鳴り響く不気味な唸り声などがホールに充満して、人と動物たちが渾然一体となったワイルドな雰囲気が充満していました。
この練習はどのくらいやったのだろう、あんなに奇声を張り上げてしまうと声がつぶれて本業の歌唱に悪影響が出ないのかしらなどこちらが心配するほどの熱演でした。特に一番最初に聴衆の度肝を抜くような「カ~~~~~ツ!!」と大声を発した男性団員は特に効果的でした。打楽器の池上英樹、池永健二は力演でしたし、コントラバスの幣隆太朗も時折見せるジャズ風のノリがリラックスさせて面白い効果を出していました。
■三善晃:混声合唱のための 地球へのバラード(1984)(谷川俊太郎・詩)
私が歌う理由/沈黙の名/鳥/夕暮/地球へのピクニック
これは東大柏葉会の委嘱で作られた作品で昭和58年に作曲されたものです。地球への愛を歌いたい、という合唱団の希望で谷川俊太郎氏の詩から以下の5作品が選ばれて三善晃が曲を付けたものです。(三好晃のプログラムノートより)
地球へのバラード
沈黙の名
鳥
夕暮れ
地球へのピクニック
この作品は先ほどの合唱作品《鳥獣戯画》とは全く趣を変え、あくまで言葉を大事に歌う姿勢が貫かれていました。その詩に描かれる愛には、ある時は自問自答したり、憤りや疑い、とまどいなど微妙な心の揺れが描かれているのでそれを歌う合唱団には言葉の一つ一つに細やかな気遣いが感じられました。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
東京混声合唱団第234回定期演奏会
世界を翔る若き泰斗山田和樹、東混音楽監督就任記念
【日時】2014年4月18日(金) 19:00 開演
【出演】指揮:山田和樹(東京混声合唱団音楽監督) オルガン:浅井美紀 コントラバス:幣隆太朗 打楽器:池上英樹/池永健二 合唱:東京混声合唱団