2012.3.24
育児支援コンサート
~子どもを連れて、クラシックコンサート
生演奏をバックに絵本の朗読を聴くなど、子どもにとってこれほど贅沢な読み聞かせがあるだろうか
私がこのコンサートで何より素晴らしいと思ったのは、「子どものための音楽スタジオ」だ。ホンモノのチェロを間近に見て、プロの演奏家と触れ合える機会など大人でも滅多にない。私はホールでコンサートを聴いていたので、音楽スタジオの様子は見られなかったが、このような体験ができる子どもを羨ましく感じる。
第1部「大人のためのコンサート」は、よく練られたプログラム構成である。私にとってチェロ・リサイタルは初めてで興味深く、丸山泰雄さんの多彩な音色や奏法を堪能した。
1曲目は多くの人に親しまれている名曲、バッハの『無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード』。正統派古典の美しい旋律のあと、2曲目は一転して現代曲の黛敏郎である。『無伴奏チェロによる「文楽」』は、チェロで三味線の音を模した面白い曲。黛敏郎には、ヴァイオリンで笙や篳篥のような音を奏でる曲があるが、三味線の響きもまた新鮮だった。コダーイ『無伴奏チェロ・ソナタop.8』の超絶技巧には目を見張った。
強烈な印象が残ったのは最後の曲、ソッリマ『ラメンタツィオ』。私はクラシックコンサートにオペラグラスを持参することはないが、チェリストの激しく動く両手に、この日ばかりは持ってくればよかったと後悔した。また、チェロとチェリストの歌でアンサンブルを作るとは全く予想もしなかったことで、不思議な音色に聴き入った。
第2部「チェロアンサンブルを聴こう」では、スーパー・チェロ・アンサンブル・トウキョウの8本のチェロが舞台に並んだ。壮大な眺めである。息の合ったアンサンブルの妙、そして特に渡邉辰紀さんの奏でるメロディーが美しかった。
『音楽と絵本「銀河鉄道の夜」』は一番楽しみにしていた企画。大スクリーンに映し出される清川あさみさんの幻想的な絵を見ながら、生演奏をバックに絵本の朗読を聴くなど、子どもにとってこれほど贅沢な読み聞かせがあるだろうか。ひとつ残念に感じたのは、音楽が盛り上がると朗読の声が演奏に埋もれがちになることだろうか。私は所々、朗読を聴き取りにくいと思ったが、客席の場所によって違ったかもしれない。
絵本の内容は子どもには難しすぎるのではないかと危惧していたが、総じて大人しかった。
正直にいえば開演前、行儀悪く遊んでいる子どもを見かけ、コンサートの雰囲気を想像して少し気が滅入っていたのである。
子どもの集中力を持続させる企画の考案は大変なことだと察するが、これからもこのような試みは続けてほしい。きっと子どもたちは音楽や楽器を面白い、楽しいと感じたのではないだろうか。小さなクラシック・ファンが増えることを、音楽を愛する大人の一人として歓迎したい。
公演に関する情報
〈ライフサイクルコンサート#71〉
育児支援コンサート
~子どもを連れて、クラシックコンサート
日時:2012年3月24日(土)14:00開演
出演:スーパー・チェロ・アンサンブル・トウキョウ
朝吹元、荒庸子、海野幹雄、玉川克、灘尾彩、
丸山泰雄、三森未來子、渡邉辰紀
原きよ(朗読)