2012.3.4
第9回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
西方正輝チェロ・リサイタル
西方正輝の今後には強い味方がついているというように思われ、今後が楽しみな演奏家といえましょう。
第一生命ホールですでに5回目と恒例になっている「ビバホール チェロコンクール第一位受賞記念コンサート」とはその名の通り、プロの演奏家を目指す才能あふれたチェリストたちの登竜門とも言うべきコンクールで見事に第一位を射止めたチェリストだけが出演出来るコンサートのことです。
今回が9回目となるこの二年に一度開かれるコンクールの第一位受賞者の中には菊池知也、趙 静、宮田大など錚々たるチェリストを輩出しているのを見ても、如何にレベルの高いものかが分かります。
しかし、このコンクールのホームページによると「企画・運営等をはじめスタッフは約100名の地域ボランティアの皆さんのご協力により開催されます。出場者は各ボランティアの家にホームステイしコンクールに備えます。」というようにアットホームな雰囲気で行われるようで、この日の第一生命ホールでの記念コンサートにも、養父市長の挨拶が後半の冒頭にあったり、実行委員会の方々の努力に加え、演奏者も多くのチケットを販売したお陰で600人近い聴衆が温かく奏者を見守る雰囲気が醸し出されていました。他のコンクールのチェロ部門で一位になっても、必ずしもこんな素晴らしいホールで受賞記念コンサートが開かれるわけではありませんから、ビバホールチェロコンクールの方が良い、と考えるチェリストがいてもおかしくないでしょう。
前半の最初はミヨー:チェロ協奏曲第1番 作品136。
聴いてみての感想は「思ったほどの違和感がない」ということで、「いきなりミヨーか」と驚きましたが聴いてみるとこの曲を冒頭に持ってきた理由が分かりました。それというのも以前聴いた他の曲からは想像できないほどのストーリーのある音楽だったからです。第1楽章の最初の強烈なフレーズを弾き始めてすぐ、この音楽家の技術はゆるぎないものがあると分かりましたが、詩的な雰囲気に移り変わっても十分な技術的裏付けに支えられた中堅奏者のような落ちつきのある演奏でした。
次いでシューマンのアダージョとアレグロ 変イ長調 作品70。
ドイツロマン派を代表する名曲を演奏するその情熱的なこと、恐れ入りました。特に曲想のコントラストが良く弾き分けられていました。
その次の二曲がドビュッシー、最初は「月の光」そしてチェロソナタ。
ここで課題が浮かび上がります。それはこのクリスタルな「月の光」をハイポジションで演奏する際に、聴きたい音は透明感のある澄んだ音色であるべきところが、惜しむらくは、ややくすんでいるのです。これは技術の問題ではなく楽器の問題かもしれません。
ただ、チェロソナタではアンサンブル・ピアノ奏者の高橋ドレミとの呼吸もぴったりで、特に2楽章のピチカートはよく合っていました。
後半の最初はポッパーでしたが、その妙技を見せつけられるようで、超絶技巧には恐れ入りました。またショパンの「序奏と華麗なポロネーズ」でもその壮麗な音楽をいかんなく表現していましたし、グラズノフの「吟遊詩人の歌」では叙情的な旋律を十分に歌わせていました。
最後がラフマニノフのチェロソナタ ト短調作品19。
これはピアノパートが優勢なので、時としてチェロの音楽が聴こえなくなる危険性のある曲なのですが、西方正輝は最初からピアノの蓋は半開でチェロの位置も客席から見てピアニストよりも左側に位置していて、バランスをよく考えた演奏になっていました。
音楽家というのは単に演奏が上手なら成功するか、と言うとそうではありません。「この音楽家は応援してあげよう」というものが何かあると会場の雰囲気も暖かいものが感じられます。今日のコンサートはまさに手作り感のあるものでしたから、西方正輝の今後には強い味方がついているというように思われ、今後が楽しみな演奏家といえましょう。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
第9回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
西方正輝チェロ・リサイタル
日時:2012年3月4日(日)14:00開演
出演:西方正輝(チェロ) 高橋ドレミ(ピアノ)