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東京混声合唱団第234回定期演奏会
世界を翔る若き泰斗山田和樹、東混音楽監督就任記念
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
東京混声合唱団第234回定期演奏会
世界を翔る若き泰斗山田和樹、東混音楽監督就任記念
【日時】2014年4月18日(金) 19:00 開演
【出演】指揮:山田和樹(東京混声合唱団音楽監督) オルガン:浅井美紀 コントラバス:幣隆太朗 打楽器:池上英樹/池永健二 合唱:東京混声合唱団
〈TAN's Amici Concert〉
第10回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
矢口里菜子チェロ・リサイタル
今回が10回目となるこの二年に一度開かれるコンクールの第一位受賞者からは菊池知也、趙 静、宮田大など錚々たるチェリストが輩出されています。
NPOトリトン・アーツ・ネットワーク/第一生命ホールでは「ビバホール チェロコンクール第一位受賞記念コンサート」と称して、才能あふれたチェリストたちの一流プロへの登竜門とも言うべきこの兵庫県養父市のコンクールで見事に第一位を射止めたチェリストを東京にお披露目するコンサートを共催しています。
前回は西方正輝の出演で1年半前に開かれ600人近い聴衆でホールが熱気であふれましたが、今回も520人ほどとこれまでで二番目に多い聴衆でした。その中には当コンクールの審査委員長であり、また、文化功労章を受章することが発表されたばかりで日本チェロ協会の会長も務める堤剛、矢口さんの師匠の山崎伸子の姿も見られました。
前半の最初はシューマン:幻想小曲集 作品73。
舞台に登場する白いドレスに身を包まれたその歩く姿から、落ち着きが窺えました。果たして演奏が始まると、しっかりした技術に支えられたオーソドックスな音楽的アプローチで、客席を見回しながら演奏する、というのは若手が席数767人のホールでなかなかできる芸当ではありません。
後半開始時に養父市長が、コンクール当時から1年経って久しぶりに見るとドイツ留学で体が大きくその演奏ぶりは時には荒々しく見えるほどになり音楽的にも一段と成長しているのが見てとれた、と挨拶されていましたが、自信あふれるその演奏態度は確かに去年秋からドレスデン音楽大学で石坂団十郎氏に師事してきた成果かもしれません。
見た目はきゃしゃな細腕からどうしてあれほど大きな音楽が生れ出るのかと思うほどの正統派とお見受けしましたが、課題を探すとすれば高音に飛んだ時の伸びやかさが出ればもっと聞かせることができるのではないでしょうか。
次はバッハ:無伴奏チェロ組曲第2番二短調 BWV1008
これまでのビバホール チェロコンクール第一位受賞記念コンサートの記録を全て調べた訳ではありませんが、プログラムに二曲も無伴奏が入っているのは、自らのチェロ演奏に対する誇りから来るものかもしれません。
生憎4曲目で体に感じる地震があり、奏者も一瞬躊躇するようなそぶりを見せましたが、それ以上は大きな揺れにならず、演奏はそのまま続けられました。ここにも音楽家としての落着きぶりが見てとれます。
ドイツで学んでいるだけあって、特に5曲目の重音が続く箇所では堂々とした弾き振りでしたが、他方、2曲目ではテンポの設定のせいか、私には多少気ぜわしく感じました。
前半最後はベートーヴェン:チェロソナタ第4番ハ長調 作品102-1
このソナタは発表当時は全く理解されなかった、とプログラムノートにあるのは有名な第3番などと比べると従来のソナタ形式とは異なるからです。「最初から最後まで通奏される一種の単一楽章の幻想曲風ソナタの観を呈している」(門間直美による名曲解説全集8より)とも解釈され、奏者には形式に依存せず聴き手に音楽を伝える必要があります。その点では本演奏は曲想をくっきりと浮かび上がらせて、ピアノとのアンサンブルも非常に良く、まさに留学の成果が表れていたのではないでしょうか。
ただ、やはり高音域の音の艶やかさが出れば更に印象的だったように思います。
後半一曲目はペンデレツキ:独奏チェロのためのディヴェルティメント
技術的に極めて難易度の高い曲を全く破綻なく引き切る力量を見せつけられたようで、さすがというほかありません。特にピチカートが素晴らしく、コルレーニョなど多様な音の響きを作りだす才能は見事です。曲想の違う4曲を丁寧に弾き分けていて、この難曲が自分の体に充分沁み込んでそれを時間をかけてろ過してきたことが窺えます。
最後はプロコフィエフ:チェロソナタ ハ長調作品119
特にこの曲を聴くにはホールを選ばなければいけません。というのも、第一生命ホールと同規模か小さめのホールでも、チェロとピアノで奏でる音楽が盛り上がって強奏になってくると、チェロの音が聞こえなくなるホールが少なくないからです。物理的にチェロとピアノを比べれば、ピアノの方が強い音が出せるわけですから、その条件を克服してチェロの音楽も聞こえるようにするためには、音の解析度合いが極めて高く、反射音がホールの各所にあたって飛び散り跳ね返ってくるような設計がなされていなければなりません。
その意味で第一生命ホールのように楕円形でありながら音が2点に集まらないような反射角度を付けた部材をステージだけでなく、ホールのあらゆる部署に埋め込むことによって、767席のどこに座っても驚くほど解像度の良い音楽が楽しめるよう設計されている、というこのホールの美質はもっと宣伝されてよいように思われます。
前置きが長くなりましたが、このプロコフィエフのチェロソナタを演奏する際にやっかいなのは最低音のC線で始まるチェロのメロディにピアノが加わり盛り上がってくるとチェロが聞こえなくなってしまいがちな点です。
それを避けるためにチェリストはピアノの反響板から左にずれて座ったりしますが、そんなことをするよりもチェロが響くホールを選ぶべきなのです。
この演奏では朗々と歌うC線で奏でられた重厚なメロディを驚くほど明瞭かつ質感のあるピチカートで盛り上げてから気分を変えてA線で美しくほっとする音楽に導くという奏者の構想が見事に聴き手に伝わっていました。
アンコールはブラームス:歌曲「メロディのように」とサン=サーンス:動物の謝肉祭より白鳥
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
第10回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
矢口里菜子チェロ・リサイタル
日時:2013年11月3日(日) 14:00開演
出演:矢口里菜子(チェロ) 大伏啓太(ピアノ)
東混 八月のまつり
東京混声合唱団特別定期演奏会34
演奏会の冒頭、指揮とピアノを演奏する寺嶋陸也が一人でステージ下手に登場し、
本公演の意義について述べた。
今年は林光が亡くなって二年目になること、「水ヲ下サイ」作曲後55周年になること。そして福島の原発、沖縄の米軍基地、更にはシリアやパレスティナでの紛争に言及し、広島・長崎に原爆が投下されて今年で68年経っても世の中は決して平和的になっておらずむしろ、「冬の時代」で混迷は深まっていることを憂えている、と。
袖に下がってから暫し深い静寂の後、女性が白、男性が黒白の衣装で登場し、原爆小景が歌われた。
■林光:原爆小景(原民喜・詩)
水ヲ下サイ (1958)/日ノ暮レチカク (1971)/夜 (1971)/永遠のみどり (2001)
武満徹が出したCDに≪自選≫映画音楽集というものがある。その中に原爆を扱った映画のために作曲された「黒い雨」という弦楽合奏曲が収められている。たまたま、去年演奏する機会があったが、ピアニッシモから始まり急激なクレシェンドで大きくなる音のうねりが不気味な光景を暗示し、切々としたメロディーで訴えかける被ばくの恐怖が印象的だった。
林光の「水ヲ下サイ」が作曲された1958年は、ビキニ環礁水爆実験による第五福竜丸他の日本漁船の被曝から4年後である。
「水ヲ下サイ
・・・
天ガ割ケ
街ガ無クナリ
川ガ
ナガレテヰル
・・・」
その歌詞に歌われる不安をかき立てるような不協和音に、原爆を投下された市民の悲痛な叫びが凝縮されている。
1971年に作曲された『夜』には
「コレガ人間ナノデス
原子爆弾ニ依ル変化ヲゴラン下サイ
肉体ガ恐ロシク膨張シ
男モ女モスベテ一ツノ型ニカヘル
・・・」
この歌詞を聴く時、どうしても「黒い雨」の映画の中の、被爆の街を逃げまどう主人公の情景が浮かんで来てしまった。それにしてもアカペラでこれだけ複雑かつ深い内容のある「原爆小景」をまさに自家薬籠中のものとして音楽的に歌う東混に脱帽である。
■寺嶋陸也:混声合唱とピアノのための「ふるさとの風に」(2005/2010)(竹内浩三・詩)
1.東京 2.雲 3.三ツ星さん 4.夜汽車の中で 5.海 6.白い雲 7.骨のうたう
この作詞をした竹内浩三はわずか23歳で戦争によりフィリピンで亡くなったという。しかし中学時代から詩作に励み入営中も日記に書き残された詩には、青年のみずみずしい感情を歌われたものが多い。その生涯は近年、NHKでも「シリーズ青春が終わった日 日本が見えない~戦時下の詩と夢・竹内浩三~」として紹介されている。
■歌の小箱
もう直き春になるだろう(1938)(城 左門・詩/山田夏精一雄・曲/林 光・編)
春よ来い(1923)(相馬御風・詩/弘田龍太郎・曲/寺嶋陸也・編)
挿し木をする/水辺を去る(中野重治・詩/林 光・曲/寺嶋陸也・編)
カワセミ/これから百年(鈴木敏史・詩/寺嶋陸也・曲)
会津磐梯山(福島民謡/寺嶋陸也・曲)
音の虹(林 光:詩・曲)
山田夏精が『もう直き春になるだろう』を作曲したのは1938年だった。既に日本は中国との戦争を始めて7年経ち、米国との開戦までわずか3年に迫っている時期でありとてもタイトルの響きにあるような楽観的な時局でなかったのは明らかである。しかしその冬の時代に作られた愛しい人の誕生日を待つ歌詞を、林光は生前、とても愛していたという。
次に歌われた四曲は、忘れられてしまった古き良き昔の日本を思い起こさせる詩や病弱ながら生きていることに感謝するような詩に寄り添うような寺嶋陸也のおしゃれな編曲が印象的であった。
そして最後は林光の詩・曲による「音の虹」でコンサートが締めくくられた。
<アンコール>
星めぐりのうた(宮沢賢治:詞・曲/林光・編)
私は寺嶋陸也を認識したのは古澤巌のアンサンブルピアニストとしてであって、それから四半世紀近く経ち、彼の内面も随分と人間的に深まったように思われる。林光が亡くなって既に2回目を迎えるが、もう彼が引継がないとこのエポックメイキングな名コンサートシリーズ、「原爆小景」を歌い継ぐ、「八月のまつり」は続いていけないのではとすら思うほど、思いの詰まった精神的エネルギーの満々と注がれた演奏会であった。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
東混 八月のまつり 指揮寺嶋陸也
-東京混声合唱団特別定期演奏会No.34
日時:2013年8月9日(金) 19:00開演
出演:寺嶋陸也(指揮/ピアノ) 東京混声合唱団 立川直也(照明)
東京混声合唱団特別演奏会
武満徹の全合唱曲 山田和樹指揮による東京混声合唱団特別演奏会
ヤマカズこと指揮者の山田和樹が「ブザンソン指揮コンクールで優勝します。」と宣言して結婚披露宴の出席者の度肝を抜いた上でその優勝宣言を現実のものとし、東混との優勝記念コンサートを第一生命ホールで行ったのが、2010年4月だったが、そのコンサートのモニターとして自分が書いた文章を引用させていただく:
>ステージから引き揚げてまだ1分もたたないうちに缶ビールで全員が乾杯していた。それも飛びっきりの笑顔で。まさに東混は自分達と音楽を作ってきたヤマカズの大指揮者へのデビューに立ち会ってこれ以上の幸せがないという雰囲気で今、ノリにのって光り輝いている。
それから2年半の間、ベルリンを住まいに欧州のメジャー・オーケストラを軒並み振ってスイス・ロマンド管弦楽団首席客演指揮者を務めるだけでなく、我が国でも日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、また小沢征爾の代役としてサイトウ・キネン・オーケストラを指揮し今年の夏にはオペラ公演デビューも果たすなど、いつ休息しているのか心配になるほどの全速力でヤマカズは突っ走っており、まさに昇り竜の勢いである。
このように数々のオーケストラを振るそのヤマカズが「東京混声合唱団とは2004年以来、委嘱初演を含む定期演奏会から青少年を対象とした音楽鑑賞教室に至るまで、200回を超える共演を重ねており、CDもこれまでに8枚リリースしている」(当日のプログラムノートより)というほど両者が密接な関係であることは、たとえば、彼の手兵オケとも言える横浜シンフォニエッタに通う熱心なファン等には案外知られていないのかもしれない。
ここ第一生命ホールではかつて、東混を指揮していた岩城宏之が演奏を終わってアンコールの時、くるりと指揮台の上で客席に向き直り、「この第一生命ホールの響きが余りに素晴らしいので気に入った。だからこのホールください。」と言った程、美しい合唱の響きがすることで知られている。その特徴は最強音の迫力はホールの隅々まで轟きわたり、最弱音のハーモニーが実に味わい深く響く音響空間だというものである。これは舞台から最後部の座席までの距離が近く、横に膨らむ楕円形のため舞台と客席との親密な関係性が可能になるのだ。
このように勢いのある指揮者が響きの素晴らしいホールで、その特徴を隅から隅まで把握している合唱団と共に、「武満徹の全合唱曲」の演奏会を指揮すればどのような演奏になるか、それは始まる前から大いなる期待に胸を膨らませるものになる。更に当日、武満徹夫人と娘さんが臨席されていたのだから、この日の演奏がどのようなものになったかは敢えて記さなくとも想像して頂けよう。
当日プログラムノートにヤマカズは「武満徹さんの合唱曲を全曲演奏することは、自分にとって大きな挑戦です。」と記している。その通り、指揮者譜面台がなく全て暗譜して指揮していたが、それほどこの日の演奏会には期するものがあったということであろう。
MI・YO・TAは浅間山の麓の長野県北佐久郡御代田町のことで明治時代に駅が出来た古い街だが今はしなの鉄道線しか止まらない。ここに武満徹の山荘があって数多くの曲がここで生れている。プログラムの順番を変更して演奏会の冒頭に持ってきたのだが、「思い出がほほえみ 時を消しても あの日々の歓び もう帰って来ない」という歌詞のところで既に涙腺が刺激されてしまう。3分余りの小さな曲だがそのあまりの儚さが胸を打つ作品だ。
男声合唱のための「芝生」は、ハーヴァード大学グリークラブからの委嘱で作曲されたが、難しすぎて彼らでは演奏できなかったという。「技巧的にかなり難しい」と武満徹自身は書いているが、歌うテクニックとして高度なものが要求されるというよりも、曲想を掴むことが困難だったのではないだろうか。それが証拠に田中信昭指揮の法政大学アリオン・コールではたいへん上手に初演されたというのだから。
男声六重唱のための「手づくり諺」はキングス・シンガーズの委嘱によって作曲された作品で、瀧口修造の詩がとてもポップで途中で歌われるソロが印象的だった。
混声合唱のための「風の馬」はチベットの習俗を撮った写真から触発された曲で、「高原の広い空間に、一条の縄が張られ、それに色とりどりの民族衣装の切れ端が結ばれ、吊り下げてある。やがて風が吹いて、その縄に垂れ下がった色彩豊かな布が一斉にたなびいて、高原の冷たい澄んだ空気の中ではたはたと音を立てる。ひとびとは、その布のたなびく方へ移り進んで行く。『風の馬』とは、その布が結ばれた縄のことを指す。」(当日のプログラムノートより)高原の景色を思い浮かべ空想の翼を広げて聴くと、女声の吐く息で表現される微風や、最後の女声のffの疾風など、風にも種類が多くあることが想像される。
第2部の混声合唱のための「うた」ではすっかり趣きを変えて、アマチュア合唱団でも楽しく歌える耳に心地よい感傷的なメロディーのものが多い。この中には2年半前のブザンソン優勝記念コンサートでもいくつか歌ったものもあり、東混にとっては十八番と言っても良いものばかりで、リラックスして聴けた。
この「うた」は武満徹が作・編曲した12曲からなる合唱曲だがすべて無伴奏で、混声8部合唱によって歌われる。 映画やラジオ、舞台など、異なる機会のために作られた曲を作曲者自身が合唱曲に編曲したものでこの中の11曲が東混の委嘱による作品である。
「小さな部屋で」は川路明作詞で高度経済成長期の前の、貧しくとも心は豊かだった当時を思わせるような佳作。「島へ」(井沢満作詞)はめぐりあいを求めて島を探すという素直に希望を持たせるものである。「さようなら」(秋山邦晴作詞)は曲集の中では最も古い時期にオリジナルが作られたもので、これが武満徹の作品だということは黙って聴いているだけでは分からないような親しみやすい曲想である。
武満自身が作詞した作品群の中で「小さな空」は特に人気のあるものだが、静かな曲想で音の波が寄せては引いていくようで心地よいだけでなく「青空みたら 綿のような雲が 悲しみをのせて 飛んでいった」という武満自身による作詞も味わい深い。「明日ハ晴レカナ、曇リカナ」も敢えてカタカナ表記にしているのが面白い。「翼」の歌詞にも「風よ 雲よ 陽光よ」とあるように武満の作品には自然現象をテーマにしたものが数多くあるが、それは御代田の山荘で作曲したことと深い関係があるのだろう。夢見るような憧れが良く歌い込まれていた。「○と△の歌」の詞で人を食ったような「地球ハマルイゼ 林檎ハアカイゼ 砂漠ハヒロイゼ」と歌い出すところが滑稽である。
谷川俊太郎作詞の作品も数が多い。「うたうだけ」はスイング感覚で酒場で歌われるような曲調、「恋のかくれんぼ」ではその詩の面白さも充分に味わえる歌唱であった。「見えないこども」は聴いただけではこれが武満の作品とは信じられないようなピアノバーで弾かれるような大衆性が感じられるのに詞の含蓄は深くその解釈は一筋縄では捉えきれない。「死んだ男の残したもの」はそれまでの第二部のどの曲とも質的に異なる最も深刻な詞であり曲想も切なく、心に迫る歌唱力は東混の実力を示して余りあるものだった。アンコールで歌われた林光編曲の同作品はピアノ伴奏(Pf:ヤマカズ)ということもあり、ダイナミックな盛り上がりには恐ろしさすら感じさせる合唱であった。
演奏順を変更されて当日最後に歌われたのが「さくら」である。これはかつて武満が中国を訪問した際に歓迎のために歌われたことがきっかけで編曲されたものだが、日本古来の素朴で豊かなうたが聴こえてくると懐かしさがこみあげてくるような、東混団員の共感がよく感じられる歌声であった。
童心に帰って自然の中を飛び回るような山田和樹の指揮棒に乗せられて、東混団員の歌声は思うがままに自由に飛翔し、客席からの拍手とアンコールの大きな声はホールの親密な空間も相俟って、舞台と客席との一体感を象徴していた。あっぱれ、「ヤマカズ+東混」に拍手!
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
東京混声合唱団特別演奏会
武満徹の全合唱曲 山田和樹指揮による東京混声合唱団特別演奏会
日時:2012年11月17日(土) 15:00 開演
出演:山田和樹(指揮) 東京混声合唱団
音楽のある週末 第11回
仲道郁代~ショパンの世界Ⅱ~
19世紀のパリのサロンにタイムスリップしたかの様なprecious timeを体験することができました。
6月23日のピアノと四重奏によるショパンのピアノ協奏曲のコンサートでは、19世紀のパリのサロンにタイムスリップしたかの様なprecious timeを体験することができました。
ショパンのピアノコンチェルトは、私の大好きな曲で、マルタ・アルゲリッチのCDをあきる程聴いてきましたが、ピアノパートの華麗さに比べると、オーケストラパートの構成が物足りない感をもっていましたが、仲道さんの解説でショパンがワルシャワからパリに出てきた時にパリのサロンで演奏しやすい様に、ピアノと四重奏の作品が先に作られたのではないかというお話で納得しました。
今回のコンサートは、仲道さんの華麗なピアノと四重奏が見事にマッチし、オーケストラで聴くより充実感のある曲に変身していました。管のパートをチェロやヴィオラが奏でているというのも興味のあることでした。
ショパンのあこがれの女性コンスタンツィヤのために作曲したといわれている第2番の第2楽章はため息が出てくる様な甘美な楽章ですが、一日に2度も聴けたというのは、とても贅沢なことでした。
こんな素晴らしい演奏会を企画して頂いたトリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)の皆さまに感謝しますが、今までわずか数回、年に1回位しか演奏されないというのは勿体ない話で、もっと多くの人たちに聴いて欲しいと思います。TANでも年に1回は開催して頂くようお願いします。
10月8日には、モーツァルトのヴァイオリン、ピアノ、クラリネットの協奏曲が、N響メンバーによる室内オーケストラで演奏されるということで今から楽しみです。
公演に関する情報
ウィークエンドコンサート 2012 - 2013
音楽のある週末 第11回
仲道郁代~ショパンの世界Ⅱ~
日時:2012年6月23日(土) 14:00開演
出演:仲道郁代(ピアノ)
島田真千子/水谷晃(ヴァイオリン)
大島亮(ヴィオラ) 植木昭雄(チェロ)
育児支援コンサート
~子どもを連れて、クラシックコンサート
生演奏をバックに絵本の朗読を聴くなど、子どもにとってこれほど贅沢な読み聞かせがあるだろうか
私がこのコンサートで何より素晴らしいと思ったのは、「子どものための音楽スタジオ」だ。ホンモノのチェロを間近に見て、プロの演奏家と触れ合える機会など大人でも滅多にない。私はホールでコンサートを聴いていたので、音楽スタジオの様子は見られなかったが、このような体験ができる子どもを羨ましく感じる。
第1部「大人のためのコンサート」は、よく練られたプログラム構成である。私にとってチェロ・リサイタルは初めてで興味深く、丸山泰雄さんの多彩な音色や奏法を堪能した。
1曲目は多くの人に親しまれている名曲、バッハの『無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード』。正統派古典の美しい旋律のあと、2曲目は一転して現代曲の黛敏郎である。『無伴奏チェロによる「文楽」』は、チェロで三味線の音を模した面白い曲。黛敏郎には、ヴァイオリンで笙や篳篥のような音を奏でる曲があるが、三味線の響きもまた新鮮だった。コダーイ『無伴奏チェロ・ソナタop.8』の超絶技巧には目を見張った。
強烈な印象が残ったのは最後の曲、ソッリマ『ラメンタツィオ』。私はクラシックコンサートにオペラグラスを持参することはないが、チェリストの激しく動く両手に、この日ばかりは持ってくればよかったと後悔した。また、チェロとチェリストの歌でアンサンブルを作るとは全く予想もしなかったことで、不思議な音色に聴き入った。
第2部「チェロアンサンブルを聴こう」では、スーパー・チェロ・アンサンブル・トウキョウの8本のチェロが舞台に並んだ。壮大な眺めである。息の合ったアンサンブルの妙、そして特に渡邉辰紀さんの奏でるメロディーが美しかった。
『音楽と絵本「銀河鉄道の夜」』は一番楽しみにしていた企画。大スクリーンに映し出される清川あさみさんの幻想的な絵を見ながら、生演奏をバックに絵本の朗読を聴くなど、子どもにとってこれほど贅沢な読み聞かせがあるだろうか。ひとつ残念に感じたのは、音楽が盛り上がると朗読の声が演奏に埋もれがちになることだろうか。私は所々、朗読を聴き取りにくいと思ったが、客席の場所によって違ったかもしれない。
絵本の内容は子どもには難しすぎるのではないかと危惧していたが、総じて大人しかった。
正直にいえば開演前、行儀悪く遊んでいる子どもを見かけ、コンサートの雰囲気を想像して少し気が滅入っていたのである。
子どもの集中力を持続させる企画の考案は大変なことだと察するが、これからもこのような試みは続けてほしい。きっと子どもたちは音楽や楽器を面白い、楽しいと感じたのではないだろうか。小さなクラシック・ファンが増えることを、音楽を愛する大人の一人として歓迎したい。
公演に関する情報
〈ライフサイクルコンサート#71〉
育児支援コンサート
~子どもを連れて、クラシックコンサート
日時:2012年3月24日(土)14:00開演
出演:スーパー・チェロ・アンサンブル・トウキョウ
朝吹元、荒庸子、海野幹雄、玉川克、灘尾彩、
丸山泰雄、三森未來子、渡邉辰紀
原きよ(朗読)
第9回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
西方正輝チェロ・リサイタル
西方正輝の今後には強い味方がついているというように思われ、今後が楽しみな演奏家といえましょう。
第一生命ホールですでに5回目と恒例になっている「ビバホール チェロコンクール第一位受賞記念コンサート」とはその名の通り、プロの演奏家を目指す才能あふれたチェリストたちの登竜門とも言うべきコンクールで見事に第一位を射止めたチェリストだけが出演出来るコンサートのことです。
今回が9回目となるこの二年に一度開かれるコンクールの第一位受賞者の中には菊池知也、趙 静、宮田大など錚々たるチェリストを輩出しているのを見ても、如何にレベルの高いものかが分かります。
しかし、このコンクールのホームページによると「企画・運営等をはじめスタッフは約100名の地域ボランティアの皆さんのご協力により開催されます。出場者は各ボランティアの家にホームステイしコンクールに備えます。」というようにアットホームな雰囲気で行われるようで、この日の第一生命ホールでの記念コンサートにも、養父市長の挨拶が後半の冒頭にあったり、実行委員会の方々の努力に加え、演奏者も多くのチケットを販売したお陰で600人近い聴衆が温かく奏者を見守る雰囲気が醸し出されていました。他のコンクールのチェロ部門で一位になっても、必ずしもこんな素晴らしいホールで受賞記念コンサートが開かれるわけではありませんから、ビバホールチェロコンクールの方が良い、と考えるチェリストがいてもおかしくないでしょう。
前半の最初はミヨー:チェロ協奏曲第1番 作品136。
聴いてみての感想は「思ったほどの違和感がない」ということで、「いきなりミヨーか」と驚きましたが聴いてみるとこの曲を冒頭に持ってきた理由が分かりました。それというのも以前聴いた他の曲からは想像できないほどのストーリーのある音楽だったからです。第1楽章の最初の強烈なフレーズを弾き始めてすぐ、この音楽家の技術はゆるぎないものがあると分かりましたが、詩的な雰囲気に移り変わっても十分な技術的裏付けに支えられた中堅奏者のような落ちつきのある演奏でした。
次いでシューマンのアダージョとアレグロ 変イ長調 作品70。
ドイツロマン派を代表する名曲を演奏するその情熱的なこと、恐れ入りました。特に曲想のコントラストが良く弾き分けられていました。
その次の二曲がドビュッシー、最初は「月の光」そしてチェロソナタ。
ここで課題が浮かび上がります。それはこのクリスタルな「月の光」をハイポジションで演奏する際に、聴きたい音は透明感のある澄んだ音色であるべきところが、惜しむらくは、ややくすんでいるのです。これは技術の問題ではなく楽器の問題かもしれません。
ただ、チェロソナタではアンサンブル・ピアノ奏者の高橋ドレミとの呼吸もぴったりで、特に2楽章のピチカートはよく合っていました。
後半の最初はポッパーでしたが、その妙技を見せつけられるようで、超絶技巧には恐れ入りました。またショパンの「序奏と華麗なポロネーズ」でもその壮麗な音楽をいかんなく表現していましたし、グラズノフの「吟遊詩人の歌」では叙情的な旋律を十分に歌わせていました。
最後がラフマニノフのチェロソナタ ト短調作品19。
これはピアノパートが優勢なので、時としてチェロの音楽が聴こえなくなる危険性のある曲なのですが、西方正輝は最初からピアノの蓋は半開でチェロの位置も客席から見てピアニストよりも左側に位置していて、バランスをよく考えた演奏になっていました。
音楽家というのは単に演奏が上手なら成功するか、と言うとそうではありません。「この音楽家は応援してあげよう」というものが何かあると会場の雰囲気も暖かいものが感じられます。今日のコンサートはまさに手作り感のあるものでしたから、西方正輝の今後には強い味方がついているというように思われ、今後が楽しみな演奏家といえましょう。
公演に関する情報
〈TAN's Amici Concert〉
第9回ビバホールチェロコンクール第1位受賞記念
西方正輝チェロ・リサイタル
日時:2012年3月4日(日)14:00開演
出演:西方正輝(チェロ) 高橋ドレミ(ピアノ)
子どものためのクリスマス・オーケストラ・コンサート
音の厚みや迫力、また様々な楽器があることも、子供たちにとってはよい興味の対象になると思います。
平成23年12月24日 第一生命ホールで行われた、「子どものための クリスマス・オーケストラ・コンサート」を鑑賞に行きました。
クリスマス・イブの土曜ということもあり、チケットを渡す入り口やクロークは混んでいましたが、対応がスムーズであまり待った感がありませんでした。
私たちの席は二階席でしたが、他のお子さんが通路を走ったり、手摺りに身を乗り出していると、「危ないので、やめてくださいね。」と速やかに係員の方が声をかけていました。以前からこの様な声かけはありましたが、プログラムに掲載された具体的な注意事項も含め、より配慮が増しているような印象を受けました。
今回はオーケストラなので、それまでの室内楽にくらべ楽譜を置く台が多く並んでおり、娘が「今日はたくさんあるね。いつもより楽器がたくさんあるのかな?」と言っていました。そしてステージ上に奏者が出てきて、チューニングを始めると「今から始まるから、練習しているんだね。」と、少しわくわくした顔になりました。
プログラムに沿って、演目の様子や感想を述べていきます。各曲でメインとなる楽器があり、その演目内で各楽器の解説をしていく、というものでした。
1.ヘンデル:「水上の音楽」より「アラ・ホーンパイプ」 (金管楽器)
ステージ上にトランペット、そして二階席ステージ横にトランペットとホルンが現れました。 二階席なので、すぐ近くに楽器の音色やキラキラ光る様子を感じました。
ステージ上の伴奏が進む間に、トランペットとホルンが一階のステージに降りてきて次の旋律へ繋いでいく、というパフォーマンスも良かったです。始まりにぴったりの明るく、セレモニー感のある曲でした。娘は手摺りをピアノの鍵盤のようにして、リズムを取っていました。この曲の最初のメロディはとても有名で、どこかで聞いたことのある曲、といえます。しかしその後の旋律は知らなかったので、こんな展開の曲なのだな、という発見がありました。
演奏後は、奏者から「ラッパはどのようにしたら音が出るか?」という三択クイズが出されました。子供たちは皆元気に答えていて、とても活気がありました。娘は「学校で見た!」とトランペットを指差し、音楽の授業で見たと喜んでいました。唇を震わせて音を出す、とは知らず(私もですが)二人でへぇ~となりました。「ピッコロ・トランペットはトランペットより1オクターブ音が上がる」、「馬に乗ったまま吹くときに、馬がびっくりしないよう、ホルンの先は曲がっている」等々、へぇ~、なるほど~の連続でした。
2.バッハ:「2つのヴァイオリンのための協奏曲より第1楽章」 (弦楽器)
いかにもバッハ、というメロディの掛け合いが美しい曲でした。二人のソリストの演奏は素晴らしかったです。
ヴァイオリンの他にチェロ・ヴィオラ・コントラバスがステージ上に。
ヴァイオリンの弦は羊の腸をよったもの、とは知りませんでした。現在はナイロンに金属を巻いたものが主となっているようです。
毎回ですが、コントラバスの大きさ、低く太い音に娘が驚いており、目の前で実際に聴かせる良さを感じます。
3.チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」より「行進曲」「アラビアの踊り」「トレパック」(木管楽器)
この「行進曲」もよく耳にしたことのある曲で、娘も知っていたようです。曲が始まると、両手で手摺りをトントンとし、自分も演奏しているようでした。
「アラビアの踊り」は木管楽器の優しい音色が生かされた、幻想的で素敵な曲でした。
「トレパック」もまた、皆よく知っている曲の様でした。娘も含め、子供たちの顔があっ!となっていたのが印象的でした。
クラリネットとオーボエはよく似ていますが、リードの長さが違い、音色も異なることを教えていただきました。また、ファゴットにはあまり馴染みがありませんでしたが、優しい音色で素敵だなと思いました。
4.アンダーソン:そりすべり/クリスマス・フェスティバル(打楽器)
この演目では、事前に申し込んだ子供たちが、ステージ上で演奏が聴けるという設定になっていました。
「そりすべり」が始まると、シャンシャン...という鈴の音に「キラキラ星でやった!」と娘が喜んだ顔をしました。
プログラムに「打楽器奏者は大忙し」とあるように、鈴を鳴らし、スネアドラムを叩き、鐘を打ち...と大活躍!「楽しい、わくわくするよ!」と娘も大喜び。
木の板を2つ合わせたような楽器は何に使うでしょう?と、演奏前に司会者からクイズが出されました。これは馬を叩くときのムチの音がする楽器でした。「ここでつかうんだね!」と娘もいつ使うのか気になっていたようです。
それだけ、打楽器奏者が次から次へ色んな音を出していて、次は何だろう?と子供たちをわくわくさせて、集中させていたんだろうなぁと思います。
「ジングルベル」になると、ステージ上だけでなく、座席の子供たちも盛り上がり、皆、笑顔で手拍子をしていました。
5.ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」より第1楽章
このコンサートで演奏しているアルクスは、指揮者のいない室内オーケストラ、ということです。
指揮者がいない中で、合奏するのは難しさもあるようですが、演奏は素晴らしく、この迫力はオーケストラならではだなぁと嬉しく感じました。
最初の旋律で「聞いたことある!」と娘も音楽の授業で知っているようでした。大きい音に驚き、耳を押さえるところもありましたが、これも生のオーケストラならでは。弦の弾く音も聴こえ、臨場感がありました。
プログラムには「運命」というタイトルは後で付けられたもので、日本以外ではあまり呼ばれていません。 とあり、クラシック好きの人には常識であっても、そこまで知らない人にとっては初めて知るような、この様な知識が掲載されていると、役立ちますし 子供たちにも自然に浸透するのかなと思いました。
6.グルーバー:きよしこの夜
オーケストラの演奏に合わせて、皆で歌いました。
クリスマス・イブにぴったりの、素敵なフィナーレでした。
娘が小学生になり、音楽の授業があるようになったためか、知っている楽器や曲、音色が以前よりも増えており本人が聴きながら、飽きずに楽しんでいるのが印象的でした。知識としてとっかかりがある分、自然と興味を持てたのかも知れません。
それまではソロや室内楽が多かったので、オーケストラで聴くことの良さも改めて感じました。音の厚みや迫力、また様々な楽器があることも、子供たちにとってはよい興味の対象になると思います。
機会がありましたら、是非また生演奏を聴きに伺いたいと思います。
今回は素敵なコンサートをありがとうございました。
公演に関する情報
〈ライフサイクルコンサート#69〉
子どものためのクリスマス・オーケストラ・コンサート
日時:2011年12月24日(土)14:00開演
出演:ARCUS(アルクス)
音楽のある週末 第9回
ジャック・ズーン&今井信子&吉野直子
フルート&ヴィオラ&ハープ・トリオ
3つの楽器のソロとアンサンブルが楽しめたとても楽しいコンサートだった
第一生命ホール10周年の10daysの最後を飾るのは、フルート&ヴィオラ&ハープ・トリオコンサートである。ヴィオラの今井信子さんと吉野直子さんを聞かせていただくの久しぶりであり、フルートのズーンさんを聞かせていただくのは初めてだった。お客様は350人前後であろうか。第1曲ヘンデル「トリオ・ソナタ」。ズーンさんの暖かくて美しいフルートが印象的で、音楽が自然に流れ出てくるのが何とも心地いい。
続いてヘンデルの「私を泣かせてください」(細川俊夫編によるヴィオラヴァージョン)。これは確かヘンデルが作曲したオペラアリアでなかっただろうか。最初はソナタ風に始まり、歌はやさしく語りかける丁寧に心をこめて演奏されているように感じる。ヴィオラの深い音色がとても魅力的。
吉野さんによるリスト「愛の夢」(ルニエ編)。これは私の勝手な推測だけれど吉野さんはこの曲が好きなのではないだろうか。彼女のコンサートの曲目によく登場する曲である。私の個人的に言えば、ピアノで聞くよりもハープ編曲版の方が好きである。この曲を聞いていて、何か前に聞いた感じと違う気がした。音楽がというのではない。間違っているかもしれないが、だいぶ前に聞いた時(ティーンエイジャーコンサートの頃)と今回で使われているハープが違うのかなぁ、なんか今回のハープはちょっと鳴りにくそうな感じを受けた。断るまでもないけれど演奏は素晴らしい。フォーレ「幻想曲」は明るく楽しい曲。フランセ「5つの小二重奏曲」も今まで知らなかったがとてもきれいな曲をいい演奏で聞けてわくわくする。武満さんの「そしてそれが風であることを知った」は、それまで何回か聞いていたがそれほど気に留めていなかったけど、その良さを感じられる演奏だった。
フルート独奏の「エア」は、ニコレさんのために作られた曲のようですが、ズーンさんのフルートの音色にもとてもぴったりで素敵な演奏でした。ドビュッシーの「夢」今井さんの弾くヴィオラの高音域の音がとてもきれいで印象的でした。
最後の「フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ」もとてもいい曲でしたが、それよりもやはり演奏が素晴らしい。それぞれに音が輝いていてとてもよかったです。
アンコールは、「亡き王女のためのパヴァーヌ」。この編成だとどんなだろうと思いましたが素朴な感じが演奏から伝わってきてとても感動しました。3つの楽器のソロとアンサンブルが楽しめたとても楽しいコンサートだったと思います。
公演に関する情報
〈ウィークエンドコンサート2011-2012〉第一生命ホール10周年の10days第10日
音楽のある週末 第9回
ジャック・ズーン&今井信子&吉野直子
フルート&ヴィオラ&ハープ・トリオ
日時:2011年12月11日(日)14:00開演
出演:ジャック・ズーン(フルート) 今井信子(ヴィオラ) 吉野直子(ハープ)
第一生命ホール10周年記念ガラ・コンサート
~モーツァルトに寄せて~
豪華な出演者によってそれぞれに違った演奏を聞くことができ、楽しかった。
このコンサートは、いろいろな形で第一生命ホールに協力、出演してくださったアーティストによるモーツァルトプログラムによるガラ・コンサートである。演奏者が有名で比較的よく知られた曲が多いためか、このコンサートは早くから完売であったようである。
当日は、前日まで日比谷の第一生命本社ビルで行なわれていたモーツァルト展(ミニコンサートも行なわれていた)の資料も展示され、それをお客さまに見て頂くのに開場時間を1時間早くしただけでなく、休憩時間や終演後も見られるように配慮がされていた。
コンサートのトップバッターを務めたのは、仲道郁代さん。仲道さんは、このホールができたとき2台のピアノのうちの1台を選んで下さった方で、仲道さんにとってこのホールのピアノはマイピアノみたいなものだろう。弾かれた曲は「きらきら星変奏曲」。透きとおった音で変化をはっきり付けた演奏であった。選んだ時と10年後ピアノはどんな風に変化しているんだろう。
2曲目は、「フルート四重奏曲」曲が始まってまもなく背筋に電気が走った。工藤さんの黄金のような音色に堀米さん、川崎さん、山崎さんの弦楽器の暖かな音によく溶け合う。音を合わせるとかいう意識が働いているとは思えない。4人ともとても自由に音楽をしているのだけれど自然に合ってしまうそんな感じのすごい演奏。聞いている間とても幸福であった。
3曲目は清水和音さん。曲は「ピアノのソナタK331トルコ行進曲付き」。1音1音丁寧にしっとりとしたピアノ。清水和音さんのピアノは永らく聞いていなかったのでこんな感じに変わったのかなあと思った。意外な場所での即興性も楽しかった。
4曲目は、佐藤美枝子さん。名前は存じ上げていたが、なかなか聞くチャンスがなかった人でした。オペラ「後宮からの誘拐」からのアリア。のびやかできれいな声。そして表情が豊かな演奏でよかった。
5曲目は、「ヴァイオリンとピアノのためのソナタK.304」。
矢部さんのヴァイオリン、横山さんのピアノ。音がきれいでさらっとした演奏。よく歌っている。もしかしたら、出演者の中では一番渋い演奏だったかも。
6曲目は「幻想曲ニ短調」、演奏は児玉桃さん。よかったです!硬質だけど透明感があり、幻想曲にぴったりっていう感じです。曲の冒頭のアルペジョは、ちょっとドビッシー風のように聞こえましたが全体としては、音楽が新鮮に聞こえました。
7曲目は、児玉さん、堀米さんのduo「ヴァイオリンとピアノのためのソナタK.378」。
ヴァイオリンとピアノの息がぴったり。2人ともとってもよく歌っていて体が熱くなる。
とりを務めるのは、「ピアノ三重奏曲K.542」仲道さんのピアノ、川久保さんのヴァイオリン、長谷川さんのチェロ。豪華な顔合わせだ。3人とも音がきれい。川久保さんはとても素直な感じの音が聞こえたように思う。集中力の高い演奏だった。今回豪華な出演者によってそれぞれに違った演奏を聞くことができ、楽しかった。そして、できるなら、アンサンブルしか演奏をしなかった演奏家の方のソロも聞いてみたかった。
公演に関する情報
第一生命ホール10周年の10days第9日
第一生命ホール10周年記念ガラ・コンサート
~モーツァルトに寄せて~
日時:2011年11月26日(土)14:00開演
出演:児玉桃/清水和音/仲道郁代/横山幸雄(ピアノ)
川久保賜紀/堀米ゆず子/矢部達哉(ヴァイオリン)
川崎和憲(ヴィオラ)
長谷川陽子/山崎伸子(チェロ)
工藤重典(フルート)
佐藤美枝子(ソプラノ)