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トリトン・アーツ・ネットワーク

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アーティスト・インタビュー

村治佳織(ギター)

ごほうびクラシック 第13回

 2022年にスタートした「ごほうびクラシック」の第1回に登場した村治佳織さん。ギター・リサイタルのほか、弟の村治奏一さんとのデュオ、ほのカルテットとのアンサンブルなど、毎年多彩なプログラムでクラシック・ギターの魅力を届けてきました。今回は【昼の部】にマリンバ奏者の出田りあさんを迎えたデュオ、【夕方の部】にスペインの名曲を聴かせるギター・リサイタルが予定されています。はじめてギターの響きに触れる方も、コアなギター・ファンも楽しめるプログラムについて、村治さんにお話を伺いました。
[文:原典子(音楽ジャーナリスト)]

「ごほうびクラシック」へのご登場も、今回で4回目になります。20240505Muraji_(C)OkuboMichiharu_R722627.jpg

村治:第1回はまだコロナ禍の影響が大きい時期でしたが、だんだんと規制が緩和され、コンサートを楽しめる休日が戻ってきたのを感じながら回を重ねてきました。私自身も1日2公演というスタイルにはすっかり慣れましたし、前回はポジティブなオーラをお持ちの「ほのカルテット」の皆さんをお迎えしたりと、いろいろな可能性を解放していっている感じがします。


今回は【昼の部】にマリンバ奏者の出田りあさんをお迎えします。出田さんとはもともとご友人だったとか。

村治:はじめは出田さんのパートナーであるヴァイオリニストの樫本大進さんを介してお会いして、ここ10年ほどは出田さんがベルリンから帰国するたびに、ふたりでお食事をするようになりました。かねてから共演したいと言ってくださっていて、それがはじめて実現した2021年以来、共演を重ねています。
 私も驚いたのですが、マリンバはオリジナルのレパートリーが少なく、ギターの譜面をマリンバに置き換えて演奏することが多いんだそうです。マリンバの横で弾いていると、音に包まれるような感覚が気持ちよくて、まさに心身が"ととのう"感じ。ギターもマリンバも、トレモロすることでしか音が伸ばせないという共通点もあって、これまでにない響きを体験していただけると思います。


IdetaRia(C)DaisukeAkita_IMG3916.jpeg前半に映画やミュージカルのナンバーをギター・ソロで、そして後半に出田さんとのデュオでマイヤーズの「カヴァティーナ」(映画『ディア・ハンター』より)やヨークの「サンバースト」がプログラムされています。村治さんにとって大切なこれらの曲を、マリンバとのデュオで聴けるのもファンにはうれしいところではないでしょうか。

村治:今回は出田さんのアイデアで「カヴァティーナ」の冒頭に黒人霊歌を演奏することに。深い祈りのなかから、あの有名なメロディがたちのぼってくるのがとても新鮮です。


そして夕方は、村治さんのソロでスペインの近現代の作品をたっぷり聴けるリサイタル。幅広いレパートリーをもつ村治さんだけに、スペインだけに絞ったリサイタルは意外と貴重ですよね。

村治:そうかもしれません。クラシック音楽の楽しみ方の王道として、国や地域ごとにプログラムをまとめるという方法がありますが、前回はイギリスのルネサンス時代から現代までの曲でまとめたので、今回はスペインにしました。スペインには2017年以来行っていないので、恋しくて仕方なくて。高まる気持ちを音に込めて弾こうと思います。


リサイタルの幕開けに置かれたE.S.デ・ラ・マーサの「暁の鐘」は静謐な朝の空気が伝わってくるようで、とても素敵な曲ですね。

村治:隠れた名曲として昔から大好きで、『スペイン』というアルバムに収録しました。同じくトレモロで書かれた有名曲「アルハンブラの思い出」が夕陽の光景だとしたら、「暁の鐘」は陽が昇る前の美しい空の光景を描いた曲。続くタレガの「アラビア風奇想曲」や、ファリャの「ドビュッシー讃歌」でも、情熱的なフラメンコや闘牛だけではない、スペインの繊細な部分を感じていただけると思います。


MurajiKaori(C)KazumiKiuchi_m2189.jpg土地によって風景も、そこに暮らす人々の気質も大きく異なるスペインの多様性を味わえるプログラムでもあります。

村治:たしかに、土地の名前が多く入っていますね。アルベニスの曲名にある「グラナダ」はスペイン南部、アンダルシア地方の都市で、アルハンブラ宮殿があることで有名です。いっぽうの「アストゥリアス」は北部の、緑豊かな森としっとりした空気をもつ地方の名前ですが、曲自体はアンダルシア地方のフラメンコのリズムで書かれています。
 ロドリーゴの「ヘネラリーフェのほとり」にあるヘネラリーフェとは、アルハンブラ宮殿のそばにある庭園のこと。美しく整えられた気品のある空間で、途中でロドリーゴのサインとも言える鳥の鳴き声が再現されます。カタロニア民謡のふるさと、カタロニア地方はスペイン北東部に位置し、その中心都市はガウディの建築で知られるバルセロナ。民族独立の気風が強く、だからこそ民謡も大切にされているんですね。
 スペインに行ったことのある方はその風景を思い出しながら、あるいはスペインに限らず、ご自身の思い出のなかの風景を自由に思い浮かべながらお聴きいただければと思います。


最後に「ごほうびクラシック」恒例の質問になりますが、村治さんは「自分へのごほうび」としてどんなことをされますか?

村治:最近気に入っているごほうびは、ひとりで動物園に行くこと。先日、オーストラリアのメルボルンの動物園に行ったのですが、もう最高でした。この世に生きているのは人間だけじゃないんだなということに気づかせてくれるというか。大人になってから動物園に行くことをおすすめしたいですね。そうやっていつも自分で自分のご機嫌をとりながら生きています。


ありがとうございました。