クァルテット・エクセルシオ(エクQ)が結成30周年を迎えました。常設のクァルテットとして多くの後輩から目標とされるエクQが、これからの活躍が楽しみな次世代クァルテットと共演するシリーズ6回目となる今回は、2023年大阪国際室内楽コンクール第2位入賞の実力派ほのカルテット(ほのQ)が登場します。エクQからは、北見春菜(ヴァイオリン)、吉田有紀子(ヴィオラ)、大友 肇(チェロ)の3人、ほのQは岸本萌乃加、林周雅(ヴァイオリン)、長田健志(ヴィオラ)、蟹江慶行(チェロ)4人全員が参加するインタビューとなりました。
[聞き手/文:田中玲子(トリトン・アーツ・ネットワーク)]
エクQが若手団体と共演するシリーズに今回は、ほのカルテットをお迎えします。以前からぜひと伺っていましたが、最初にほのQを知ったのはいつになりますか。
大友:(審査委員を務める)秋吉台音楽コンクール(注:ほのQは2019年に優勝)の時ですね。すばらしいので、絶対にいつかはこの企画に出ていただこうと思っていました。
林:秋吉台では、審査委員の先生にレッスンもしていただけるのです。大友先生にベートーヴェンの「ラズモフスキー第3番」の第2楽章の(チェロのピッツィカートから始まる)冒頭をレッスンしていただいて、同じチェロという楽器でこんなにも違う音が出るんだと衝撃を受けました。
ほのQ側からは、大友さんによる衝撃のレッスン(笑)の他に、エクQにはこれまでどんな印象を?
林:クァルテットとしての活動の軸がしっかりしていて、日本で活動できるということがすごいなと思っていました。若手クァルテットとしてはその存在自体に安心感を覚えます。
蟹江:初めて演奏を聴かせて頂いたのは僕がまだ名古屋にいた高校時代、クラリネットの亀井良信さんと共演された公演です。ほかにもNHKの放送で演奏を見ていましたし、弦楽四重奏といえばエクセルシオ、というイメージがあったので光栄です。
岸本:日本を代表する団体ですから、クァルテット奏者として背中を追いかけていきたい存在です。
長田:共演できることが大変ありがたいですし、吸収できることは吸収していきたいなと思います。
ほのQは2023年の大阪国際室内楽コンクールで第2位を受賞しています。コンクールに入賞したことで何か変わったこと、印象に残ったことはありますでしょうか。
林:副賞として、今年(2024年)の12月にドイツのミュンヘンで演奏させて頂きます。ヨーロッパで演奏できるのは、新しい挑戦だなと思います。僕は、自分のためだけでなく人のために演奏したいと思うので、自分の演奏がヨーロッパでどれだけ人に影響や、感動をもたらすことができるのか肌で感じる機会になれば、コンクールのごほうびをいただけたという気持ちです。
蟹江:以前はコンクールを目指してプログラムを組んで、本番に慣れるために演奏会をやっていましたが、大阪国際室内楽コンクールの後は、ありがたいことに色々な場所で演奏会の機会を頂くことが増えて、プログラムについて色々と考えられるようになってきました。「コンクールのためのプログラム」ではなく「僕たちの演奏会のためのプログラム」になってきたかなと。ただ今でも、年齢が許す限りコンクールは受けたい、とみんなで話し合っています。
吉田:海外の国際コンクール?
岸本:そうです。
長田:ヴァイオリンを弾いていた時代を含めても、僕はコンクールで海外に行くのは初めてなので、緊張しますけれど、なるべく向こうの音楽や、海外の空気を取り入れられればと思います。
コンクールは、ひとりより4人で出る方が楽なように思えますが、やはり緊張しますか。
岸本: 4人で同じモチベーションを保つのが難しいですね。私はひとりの方が気は楽です。大阪のコンクールの時は大変でした......(笑)。
吉田:誰かが不機嫌な時は、いい感じにフォローするメンバーがいるのですか。
岸本:ほっておく時もあります。余力がある時は、誰かがフォローするんですが......。
吉田:4人はとても良い雰囲気に見えますけど。
岸本:何もない時は、すごく仲良しです(笑)。
エクQも1996年大阪国際室内楽コンクールで第2位を受賞しています。その頃に生まれて同じコンクールで入賞した若者たちと共演するということになるのですね。でも、きっと当時はクァルテットを取り巻く状況が色々と違っていたでしょうね。
大友:学生時代はクァルテットが楽しくて夢中になってやっているだけでしたが、コンクールで入賞して色々な方が期待してくださって、「あ、続けなければ」と思って......。その頃はクァルテットで食べていくという道は見えなかったので、それこそ何もない荒野を突撃するような感じでこれまで進んできました。でもうれしいのは、続けてきたことで、「弦楽四重奏で生きていくという人たちが日本にもいる」と認識されたこと。若い人たちが「エクQのような存在があるんだ。じゃあ自分たちはどうしようか」と考えられるようになっているのかな。実際に弦楽四重奏団として前向きな活動をしている団体が増えてきましたよね。(この企画で2020年に共演した)クァルテット・インテグラもそう。すばらしいことですよね!
プログラムについて伺います。公演の前半ではそれぞれが弦楽四重奏曲を演奏します。まずほのQが演奏するのはメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第3番ですね。
林:僕たちはメンデルスゾーンにとても縁があって、今回第3番を演奏すると、(メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲の)全6曲を演奏することになります。
蟹江:初めて取り組んだのは第5番で、もともとコンクールの課題曲だったのですが、演奏していくうちに「メンデルスゾーン、いいね」と。その後第6番、昨年(2023年)には第4番、今年第2番を演奏して、最近第1番を。結果的に第3番が最後になりました。メンデルスゾーンの弦楽四重奏の中でもD-dur(二長調)で底なしに明るい。少し前に候補になったこともあったのですが、その時は「今はD-durの気分じゃないかも」となって。調性はプログラムに影響しますね。
この演奏会はD-durの気分で?
ほの全員:喜ばしい感じで!
林:華やかで、今回の公演にぴったり。メンデルスゾーンの曲を色々と演奏してきたからこそ(内声の)きざみは絶対楽しいと思う!早くきざみたいですね!
長田:きざみも一緒に流れに乗っていけて、弾いていてずっと楽しい。メンデルスゾーンは第1ヴァイオリンが大変というイメージがありますが、第1番から第6番にいくにつれて内声もどんどん厚くなって、内容も濃くなります。
岸本:(第1ヴァイオリンの)メロディは大変ですが、インスピレーションがわきやすく、自然に弾ける印象で大好きです。
蟹江:メンデルスゾーンの有名な交響曲第4番「イタリア」や、「真夏の夜の夢」の中の「結婚行進曲」と似ているテーマや音列が入っていて、自分はオーケストラをやっているのでそんなところも楽しめるかなと思っています。民族的な、哀愁ただよう部分もありますしね。
エクQが演奏するのはコルンゴルトの弦楽四重奏曲第2番ですね。
大友:「新ウィーン楽派あたりを弾いてみたい」という、西野ゆか(第1ヴァイオリン)のリクエストです。
吉田:演奏するのは初めてですね。
30年間の活動で様々なレパートリーを持つエクQにとって意外にも初挑戦の作品とのことで、これも楽しみです。休憩をはさんで後半は、全員でエネスコの弦楽八重奏曲です。若手クァルテットとの共演企画第1回でクァルテット奥志賀と演奏した曲ですね。
北見:その時は私はまだメンバーではなかったので、第一生命ホールには聴きに来ていました。別の場所で、実は私もクァルテット奥志賀といっしょに演奏したことがあります。今回ほのQさんと演奏できることがとても楽しみです。
吉田:毎回、若手のクァルテットのみなさんのキャラクターが全然違って、特に今回はこうして見ていても一人ひとり楽しそうですし、4人が集まったときの合わせはどんな感じか興味あります。
ほのQのみなさんは確かにそれぞれキャラクターが違って個性がありますよね。
林:コンサートでは僕がMCを担当するのですが、ステージでは岸本は絶対しゃべらない。先日のコンサートでは岸本の想いを書いた手紙を、蟹江が代わりにステージ上で読んだくらいです。今静かな長田は、実は本番前は一番しゃべっているかもしれません。蟹江はアメリカからの帰国子女で、英語でのレッスンの時は助かっています。彼は名古屋出身ですが、他の3人は岡山、大阪、兵庫出身で、兵庫芸術文化センターのスーパーキッズ・オーケストラでいっしょでした。
最初は僕の室内楽の授業の単位を取るために生まれたクァルテットだったんです。
吉田:僕の?(3人は)先輩ですよね?
林:2年生の時、単位を落としてしまって...。2年生は古典派を演奏しなくてはいけないのですが、同級生は3年生になってロマン派を演奏している。それですでに色々な曲を経験している先輩方が協力してくれることになりました。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンはどうやって決めたんだったっけ......先輩だから「ワッショイ」したのかな。
岸本:それを言うなら「ヨイショ」。
(全員爆笑)
ほのQの皆さんには5月に「ごほうびクラシック」シリーズで村治佳織さんと共演していただきました。ホールの印象を聞かせていただけますか。
林:弾いた音が素直に客席まで届くという印象があり、弾いていて楽しい。舞台上の音と客席に届く音のギャップがあったら、気持ちよりもテクニックで聴かせようとするのですが、感じたままに演奏できます。
大友:すごくいい音響だと思う。それもだんだんさらに良くなっている。
林:八重奏を演奏するのは、バランスなどは難しいですか?
吉田:だいたい定位置が決まってきているので、そこで演奏すると、良いバランスで弾きやすいです。大丈夫ですよ。
蟹江:ホールの音響をよく知っている方がいるのは心強いです。
それぞれの弦楽四重奏曲はもちろん、八重奏曲での個性のぶつかりあい、とけあいも今から楽しみです。ありがとうございました。