2年に一度、兵庫県養父市で開催されている「ビバホールチェロコンクール」。
2023年に行われた第15回第1位受賞者であり、12月1日(日)に第一生命ホールにて受賞記念リサイタルを開催する泉優志さんにメールでインタビューをしました。
ビバホールチェロコンクール第1位の受賞、おめでとうございます。コンクールに挑戦したきっかけは?
泉:東京藝術大学を卒業後、ドイツのザール音楽大学大学院に入学するまでの間に約六ヶ月ありました。その中で日本の学生生活の集大成として挑戦しようと決めました。また、大学を卒業した自分が受ける意義を深く考えて、テクニックや正確さにとらわれるのではなく、音楽家として音楽を表現する舞台にしようと決めて挑戦しました。
第1位を受賞してから何か変化はありましたか?
泉:環境の変化よりは心境の変化の方が大きかったです。
やはり若手登竜門のコンクールで優勝させていただくことができて、自分の中でもやってきたことは間違いではないと自信になったし、さらにこれからもっと作品の良さを伝えられる音楽家にならなければと身が引き締まりました。
ビバホールチェロコンクールはとてもアットホームなコンクールですが、何か思い出に残っていることはありますか?(ボランティアスタッフとのエピソードなどありましたら)
泉:ボランティアスタッフの方々は本当にみなさん温かくて、毎日会場に着くたびに「今日も頑張ってね!」と声をかけていただき、本番後は少し世間話をしたり、荷物を見ていてくださったりと、ストレスが多くかかるはずのコンクール期間ですが、ストレス無く過ごせました。音楽に集中できたのはスタッフの皆様のおかげだと感じています。
養父市の感想・印象に残っていることはありますか?(養父市・コンクールの思い出)
泉:実はこのコンクール期間、僕は養父市にある交流館の音楽室を予約して練習していました。そのため人よりもタクシーでの移動が多かったように思います。タクシーの運転手の方々も毎日顔を合わせるので、だんだん名前と顔も覚えてきて、移動中もたくさんお話しさせていただき、とても仲良くなりました。
練習室に向かう時も「今日も頑張るねー!帰りはここで待ってるからね」と優しく声をかけてくださったのも今も覚えています。
チェロを始めたきっかけは?
泉:もともと母と姉の影響でピアノをやっていたのですが、6歳の頃NHKの教育番組「夕方クインテット」を観て、人形のおじいさんのチェロの音が好きになり、母に「僕これをやりたい」とお願いしました。
3月に東京藝術大学を卒業し、10月からドイツのザール音楽大学大学院で、グスタフ・リヴィニウス先生のもとで勉強されています。留学したいと思ったきっかけと、どのように留学先を決めたか教えていただけますでしょうか?
泉:元々藝大にいる頃から留学は考えていました。しかし学部2年生になる直前からコロナ禍となり、しばらくの間身動きができませんでした。それでもチェロの学びはとても充実していたので、今まで培ったものをもっと成長させたいと思い、卒業と同時に留学を決めました。
いまはフランスとの国境あたりにあるザールブリュッケンという地域で勉強しています。ここに決めた理由は、この人から学びたいと思えるチェリストがいたからです。
少し田舎の地域で、やはり都会には刺激的なコンサートやオペラが多くありますが、私はその環境よりも、自分が本当に吸収したいと思えるチェリストが教鞭を取る大学を選びました。一番最初はメールでコンタクトを取りました。「あなたに習いたい」「あなたの演奏を聴いて人生変わった」とメールを作って、自分の演奏動画も送りました。そこから「だったらドイツに一度レッスンを受けにおいで」と返事があり、そこからスタートしました。
SNSでも発信されていますが、ドイツでの生活はいかがですか?
泉:約1年が経ちましたが、まだ慣れないことだらけです。
自分と向き合う時間が多くあり、良い面も悪い面もあります。深く考えすぎて少し気持ちが落ち込んだりすることもありますが、常にチェロと向き合い、作品のこと、自分の奏法のことを考えられるのでとても充実しています。
チェロの魅力とは何だと思いますか?
泉:人の声に近いというのももちろん魅力ですが、僕は音域の広さにあると思います。心に染みる低音から訴えかけるような高音まで、その作品の様々な表情を表現することができます。
養父市と東京公演についてお聞きします。今回のリサイタルのプログラムはどのように構成をしましたか?(選んだ理由、聴きどころなど)
泉:今回のリサイタルでは、詩的で豊かな表現が魅力のドビュッシーとヤナーチェクの作品、そしてドイツ伝統の重厚さと深みを持つブラームスやメンデルスゾーンの作品を中心にプログラムを構成しました。ドビュッシーとヤナーチェクの音楽は、情景や感情を繊細に描き出す表現が聴く人を引き込み、独特の幻想的な世界観が楽しめます。それに対して、ドイツ伝統の作品は構築的でありながらも情熱的で、特にブラームスの作品には深い内面性が表れています。これらの対照的な要素を通して、多様な音楽のキャラクターとその魅力を存分に味わっていただきたくこの作品を選びました。
共演のピアニスト松本望さんをご紹介いただけますか?
泉:松本望先生は、東京藝術大学作曲科、そしてパリ国立高等音楽院ではピアノ伴奏科を卒業されているスーパーピアニストです。松本先生とは僕がまだ中学生だった頃からご一緒させていただいています。松本先生の魅力は、音色の多彩さにあると思います。ソナタを聞けば曲の表情、場面がはっきりとわかり、コンチェルトを弾けばピッコロに聴こえたり、チューバに聴こえたり、ティンパニに聴こえたりと、とてもシンフォニックに演奏してくださいます。その作品の良さ、持つメッセージを、音に最大限に表現してくださるので弾いていてとても楽しいです。
聴きにいらっしゃる方(これからチケットを買おうと思っている方)へメッセージをお願いします。
泉:ドビュッシー、ヤナーチェクという詩的で感覚的な表現、形式の自由さを求めた作曲家とブラームス、メンデルスゾーン、ヒンデミットのドイツ音楽の伝統を継承しつつ、各時代に合わせて革新を加えた作曲家の作品をお楽しみいただきます。どちらも何か新しい発見があるのではないかと模索しながら作曲した様子が、様々な奏法やキャラクターから伝わってきます。
ヨーロッパでの新生活を始めた僕も、新しい発見、そして自分自身の革新を目指し、作品の素晴らしさをお伝えできればと思います。
お使いの楽器は何ですか?ここが好きなどのポイントはありますか?
泉:使用楽器は、(株)日本ヴァイオリンより貸与の1734年製"M.Goffriller"です。
この夏から貸与していただくこととなりました。少し大きめのボディから鳴る深い低音がとても魅力的な楽器です。
今後の目標(またはこれから新たに取り組みたいこと)について教えてください。
泉:ヨーロッパで勉強をしているので、これからは国際コンクールを受けていきたいと考えています。またドイツにはたくさんのマスタークラスやアカデミーがあるのでそれも積極的に参加しながら、多くのことを吸収できるように精進したいと思います。
どんな演奏家になりたいですか?
泉:将来、数多くの素晴らしい作品をお客様に、その魅力を共有できるチェリストを目指しています。どの層の方々にも寄り添い、心に響く演奏を通じて、幅広い人々の心に寄り添う芸術家でありたいと考えています。
普段の練習で意識されていることはありますか?
泉:昨日の自分より上手くなることです。ゴールを見過ぎていても焦りやストレスになってしまうこともあるかと思いますが、昨日の自分より少し上手くなっていたり、魅力を発見したり、その作品が好きになっていたら、とても良い練習ができているんだと一つの目標にしています。
ステージに立つうえで自分に課しているルール(ルーティン)はありますか?
泉:藝大時代から師匠によく言われていた「音楽に集中すること」です。やはり舞台に上がるので、緊張で色々な邪念も湧いてしまいますが、自分が何を表現したいのか、伝えたいのかを考え「音楽に集中すること」を常に目標に舞台に立っています。
ご自身の演奏に強く影響を受けた他の演奏家がいれば、彼らからどのような影響を受けたのか教えて下さい。(クラシックでなくても構いません)
泉:昔から憧れていて、よくCDを聴いていたのはアントニオ・メネセス先生です。
彼の歌っているようなチェロの音が大好きで、何度かレッスンもしていただいたことがあります。知的でありながら感情に訴えかけるチェリストです。
音楽以外ではまっていることはありますか?
泉:ドラマ鑑賞、映画鑑賞です。
ありがとうございました。