「ごほうびクラシック」シリーズの12月は、今年も才気あふれる4名のピアニストたちが彩る「ピアノ・オールスターズ」です。第3弾となる今回登場するのは、北村明日人、中川真耶加、古海行子、内匠慧の4名です。第一生命ホールを舞台に繰り広げられるピアノ・コンクール「ピティナ・ピアノコンペティション」歴代入賞者たちが、「ピアノの詩人ショパン 名曲の花束」をテーマにお届けします。
[聞き手・文/飯田 有抄(クラシック音楽ファシリテーター)]
コンサートの第1部は、大人気のリクエスト・コーナーです。クラシック音楽のコンサートで、それも4名のピアニストがリクエストに応えるというのは「ごほうびクラシック」ならではのスペシャル企画。北村さん・中川さん・古海さん・内匠さんそれぞれに、4曲ずつの「候補曲」がありますので、ウェブから「リクエスト曲」投票で参加してください。候補曲にはJ.S.バッハ、ベートーヴェン、チャイコフスキー、リスト、プーランクと、多彩なピアノ作品が並びます。あなたの聴きたい1曲や、このピアニストならこの作品を!というリクエストをぜひお送りください。投票受付は10月31日までです。投票の多かった作品を、4名がそれぞれ演奏いたします。どの作品が演奏されるかは、当日のお楽しみです!
*リクエスト曲コーナー 候補曲と応募方法は、こちら
第2部は「ピアノの詩人ショパン 名曲の花束」と題し、ピアニストにとって特別な存在であるショパンの作品をお聴きいただきます。ショパンを演奏したことのないピアニストはほぼいないことでしょう。しかし、ショパンに抱く思いや、作品との向き合い方は、ピアニストによって異なることでしょう。4名のみなさんが抱くショパン像や彼の作品像について伺いました。
北村明日人:ショパンは生涯にわたって、ワルツやマズルカといった小品から大規模なポロネーズまで、さまざまなスケールのピアノ曲を作り続けました。それも、同時期に大・小の曲を手がけているのです。そうした二面性を持ち合わせた作曲家ですから、こちらもそう単純なイメージを抱くことは難しいですね。まさにそこがショパンの大きな魅力です。
内匠慧:ピアニストにとってショパンの音楽は、『オプションが多い』と言えます。つまり、彼のメロディーもリズムも、楽譜を読みながら解釈できることが多く、幅が広いのです。雲の輪郭を掴むのが難しいように、ショパンの音楽も簡単には掴めない。それこそが大きな魅力です。
中川真耶加:ショパンはとても繊細な優しさと、絶対に折れない強い意志とを持ち合わせていた人だと思います。大きな振れ幅の中で、人間のセンチメンタルな部分をピアノ音楽に乗せて表現することができた作曲家ですね。だからこそ、世界中の人々に愛されているのでしょう。
古海行子:純粋な喜びと悲しみ、相反する感情を同時に持ち合わせ、その思いを作品に投影させることができたのがショパンではないでしょうか。彼の楽譜はとても理知的に書かれていて、決して感情だけでは作られていません。それでいて人の心に寄り添う音楽を生み出した、とてもピュアな芸術家だと思います。
それぞれの言葉から滲み出る、ショパンの純粋さと複雑さ。一見相反するようなものを、ひとつの音楽世界へと昇華させることのできた音楽家であったことが伺えます。そんなショパンの芸術性を、みなさんがそれぞれの演奏で浮き彫りにしてくれます。取り上げる作品について、思いや聴きどころについて教えてもらいました。(括弧内は演奏曲)
北村(アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ op.22):
映画『戦場のピアニスト』で、ラストに主人公がオーケストラとともにこの作品を演奏します。僕が子どもの頃に初めて見た音楽映画であり、強く衝撃を受けた作品でした。いつか自分もオーケストラとともに演奏したいと思いましたが、その夢は高校2年生のときに叶いました。この曲は、ピアノ独奏でもよく演奏されます。ソロで弾く際には、オーケストラのサウンド・イメージも自分の中に持ち込みながら、ふくよかな響きとなるように意識して演奏します。若き日のショパンの"前のめり"な気持ちが表れた作品ですので、立体的に演奏したいと思います。
内匠(幻想即興曲 嬰ハ短調 op.66、バラード第1番 ト短調 op.23):
ショパンは非常に研究が進み、素晴らしい演奏がたくさん残されています。その中で、一般的な解釈として広まっている演奏と、私自身が抱くショパンの音楽への解釈とは、必ずしも一致していません。むしろ、一般的なところから私の解釈がズレていると思うものこそ、コンサートで演奏することに意義を感じます。その意味で、『幻想即興曲』はみなさんのイメージするものとは違った演奏になるかもしれません。『バラード』第1番は、私自身がピアノを指導する立場になって、より魅力を感じた作品です。今までコンサートで演奏したことは一度もありませんでしたが、今回をいい機会と捉え、あらためて向き合いたいと思っています。
中川(ノクターン第8番 変ニ長調 op.27-2、舟歌 嬰へ長調 op.60):
作品27-2は特別な作品です。現実から離れたかのような、広さと高さを感じさせる、他のノクターンとはまた違うキャラクターを持っていると 思います。
『舟歌』は、私がこれまでに重要な節目には必ず演奏してきた作品で、いつも私を導いてくれる存在です。ほんの10分ほどの中に、複雑な感情表現が凝縮されていて、それはまるで明確な答えのない人生の旅路。ショパンが『人生はこのように進むのだ』と伝えてくれているようです。何度弾いても謎めいた魅力のある作品ですので、大好きなノクターンとセットで演奏できるのがとても楽しみです。
古海(幻想曲 へ短調 op.49):
幻想曲は、私のレパートリーとしてもっとも付き合いの長いものですが、ショパン国際コンクールの予備予選や一次予選など、大きな舞台で演奏することが多かった作品です。これまであまりコンサートでは取り上げてこなかったのですが、第一生命ホールという思い入れのある場所で、またショパンにフォーカスを当てた素敵な機会なので、自分の深いところにあるこの作品を聴いていただきたいと思いました。弔いの行進から始まって、これぞショパン! というようなハーモニーと旋律が美しいパートがあったり、軍隊のような、祖国への誇りを感じさせる行進があったり、中間部には祈りを捧げるようなコラールもあります。とても情熱的で、場面転換が分かりやすく表情豊かな作品です。音楽から感じられる壮大な物語を描けたらと思っています。
インタビュー その2に つづく