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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

東 亮汰(ヴァイオリン) 木田奏帆/谷村香衣(ヴィオラ) 山梨浩子(チェロ)

ウェールズ弦楽四重奏団~アカデミー生とともに①

 昨年結成15周年を迎えて、第一生命ホールでの「ベートーヴェン・チクルス」を5月に完遂させた、ウェールズ弦楽四重奏団。どの団体とも違う演奏表現をますます深めながら、「後進の指導にも取り組みたい」という思いを抱き続け、今年から「ウェールズ・アカデミー」として実現することになった。その内容は「オーディションで選ばれたアカデミー生とのリハーサルの場を通して、アンサンブル能力を一緒に高めて、秋に第一生命ホールで共演する」というもの。他の多くのアカデミーと違うところは「共に作り上げて、本番の共演で成果を披露する」こと。共演者として彼らの経験を次世代に伝えるというもの。彼ら自身「提案はしても、こうしろと命じるつもりは全くない。むしろいいやり方があれば取り入れたい」というスタンス。教えるだけではなく、共に学び、良いものを作りあげたい――音楽家としての姿勢そのものを伝える場にもなっている。
 さらに、公演の約半年前から開始して、できる限りの時間を使ってリハーサルを重ねるというのも大きな特徴。アカデミー生たちはすでにプロの世界で活躍する奏者ばかり。曲を形にするだけなら数回の練習で可能なメンバーが、長期間丁寧に作品に取り組み、1音1音の意味や役割を理解しながら、表現の可能性をじっくり探っていくのである。

[取材・文/林 昌英(音楽ライター)]

ウェールズ弦楽四重奏団の﨑谷直人(ヴァイオリン)と共にモーツァルトの弦楽五重奏曲第4番を演奏

オーディションこそ受けたい!

 5曲の演目のうち、モーツァルトの弦楽五重奏曲第4番を演奏するのは、ウェールズ第1ヴァイオリン﨑谷直人と、個別にアカデミーに応募した4人の俊才、東亮汰(ヴァイオリン)、木田奏帆、谷村香衣(ヴィオラ)、山梨浩子(チェロ)。4人にメールでインタビューしたところ、全員からとても丁寧な回答が来て、全部を掲載できないのが残念だが、少しずつ紹介したい。
 4人は全く別々に応募したとのことだが、うち3人が「ツイッター、SNSで偶然知って応募した」という。応募の理由は「レッスンを継続的に受けられること(東)はもちろんだが、個人参加はオーディションでウェールズのメンバーと共演する形式で、「こんなチャンスはまたとない!と思って(山梨)」「オーディションを受けるだけでも十分に勉強になる(木田)」「オーディション当日はウェールズの方々と演奏できる喜びでいっぱいに(谷村)と、異例の方式のオーディションが応募の決め手になったようだ。
 
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1音ずつじっくり確認して噛みしめながら

 リハーサルでは、崎谷はこうしろとは言わず、常に問いかける。全ての瞬間に5人に起きていることを確認しながら進行し、何度も「伝わっているかな?」と尋ねつつ、全員が一音ずつ考えながら進む。もとより4人とも特別な若手であり、なかでも東はソロでもすでに活躍顕著な俊英。その彼らが一言ひとことに聴き入る、というより﨑谷の話や提案の面白さ、意味深さに圧倒されているといってもいいかもしれない。"全員が上手く弾けることはわかっている"からこそ、練習は超スローテンポで行い、誇張ではなく1拍や1音ごとに意味を考えていく。そして、わずかでも無自覚なテンポの動きや勢いで表現を作るクセは見逃さない。それは枠にはめるためではなく、その正反対、一瞬一瞬で最大限に自由な表現を選択できるようになるためなのである。それを確認しながら、全員がお互いの音や表現を完璧に聴き取ること、その一瞬でどんな奏法を選べるのかを粘り強く指導していく。
「他の人がどんな音色をしているか、ヴィブラートはどうかなど、これほど周りに注意を払ったことがなく、いつもなんとなく合わせてしまっていたことがわかりました(山梨)
「とても効率的。音楽をルーペで拡大して見るようなリハーサルは一音一音の間で何が起こっているのかということを感じることができ、とても新鮮です(木田)
「毎回のリハーサルが目から鱗の内容です。とにかく学びが多く、リハーサルが終わる頃には学んだことで頭がパンパンになります(谷村)
 モーツァルトの五重奏曲第4番は、意味を吟味しながら学ぶにも恰好の名作である。しかも音を出すのが困難という曲ではないため、ヴァイオリンとヴィオラはときにパートを入れ替えてみたり、楽器の配置を変えてその効果を考えたりと多彩な練習も行っている。
「ヴァイオリンのどちらのパートも弾く機会があったり、細かく分解して、多面的に理解を深めたことで前とは違う見方ができるようになりました。伝え方という面でも大変勉強になっています(東)
 その結果、「モーツァルトは短調の曲中で現れる長調の描き方が本当に素晴らしく、まるで女性が微笑みながら涙を流しているような、そんな美しさや哀しさに胸が締め付けられます(木田)」「モーツァルトの転調の巧妙さをこの曲に学びました。とても美しく、儚く、弾いていて気持ちが揺さぶられます。リハーサルでは、楽譜にこう書いてあるから感情が動く、という視点を勉強しました(山梨)と作品についての理解と愛情が深まったことは、何よりも大きな成果ではないだろうか。
 
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4人それぞれがアカデミーから得たもの

 本公演はまだ先だが、すでに数か月のリハーサルを重ねて、アカデミーの経験を一度振り返ってもらうと、4人それぞれの思いが届いた。本公演の成功と共に、各人の今後の活躍を心から期待したい。
「これまで経験したことのなかった曲へのアプローチをアカデミーで教えていただきました。今まで自分の引き出しになかった表現が出来る気がしています(谷村)
「アカデミーを通して、音楽を紐解いて他人と共有するための考え方、伝え方の引出しが増えたと感じています。これから自分のなりたい音楽家像についても考えるようになりました(木田)
「アドバイスの意図を本当の意味で理解し、自分の演奏に浸透させるまでには、時間を要することだと思うので、日頃の意識の積み重ねを忘れずに、自分なりの答えを見つけていきたいです(東)
「アンサンブルは、誰かひとりでも点で合わせた瞬間に壊れてしまうし、空気感まで共有できた時は同じ体のように動く感覚があったり、本当に繊細だと思いました。
 今回一緒に弾くヴァイオリンの東亮汰さんと新しくクァルテットを組みました。今回学んだたくさんのことを活かして、将来長い目で活動できるようなクァルテットを目指したいと思います(山梨)

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