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トリトン・アーツ・ネットワーク

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アーティスト・インタビュー

(C)大窪道治

小山実稚恵&川本嘉子

小山実稚恵の室内楽
ブラームス、熱く深い想いをつなげて 第4回
ヴィオラ&ピアノ・デュオII
川本嘉子とともに

2018年9月から始まった、ピアニスト小山実稚恵が様々な音楽家と室内楽作品を共演するシリーズ「小山実稚恵の室内楽 ブラームス、熱く深い想いをつなげて」。第4回となる2020年12月には、2018年12月に続いてヴィオラ奏者の川本嘉子が登場し、「ヴィオラ&ピアノ・デュオⅡ」がひらかれる。今回は、前回に引き続いてバッハ、ベートーヴェン、ブラームスのドイツ3大Bの作品を披露するほか、メンデルスゾーンの作品も取り入れたプログラムが組まれている。二人に今年の演奏会についてきいた。

[聞き手:音楽評論家 山田治生]

まず、2018年12月の初めてのデュオ・コンサートの感想を話していただけますか?

小山:ヴィオラの音域は一般的に人間の声に近いと言われていますが、川本さんのヴィオラは、本当に声で語っているかのような音楽だと思いました。良く響く声で正直に語り合ったり、優しい微笑でささやいたり(笑)。かと思えば狂おしいほどの慟哭、時には深いため息もつく。一緒に演奏していると涙が浮かぶ瞬間もあります。

すべてが心から発せられているので、ヴィオラというより川本さんが身体や心で感じているものがそのまま音になっている感じです。

川本:小山さんと演奏させていただけるだけでも光栄なのに、本番の中で沢山のプレゼントをいただきました。

前回のインタビューで少しお話ししましたが、普段、オーケストラの中で演奏していて、ヴィオラの役割は他のパートに対してエネルギーを拡大する事が重要なので、私は一瞬も気を抜かないことが習慣になっていますが、小山さんとの演奏では、何かの隙間にとてつもない優しさや思い遣りを感じる事が多々あり、自分の音楽との向き合い方がオーケストラでの演奏会を重ねているうちに変貌してしまっていることに気付いて本番中に驚いたりもしました。まあ、目の前に小澤征爾先生や鋭い指揮者がいらしたら、「まだ足りない!」と鼓舞させられる事もあるかと思いますが。小山さんとの演奏では、自分が柔和に表現する大切さをたくさん感じ、またその空間をもらいました。

☆トリミング_0K85828_181222公演記録(C)大窪道治 - コピー.JPG

プログラムはどのように決めましたか? 今回は、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスのドイツ3大Bに加えて、メンデルスゾーンのチェロ・ソナタ第2番が入っていますね。

小山:メンデルスゾーンのチェロ・ソナタ第2番のリクエストは川本さんからでした。大変華やかでヴィルトゥオーゾな作品で、チェロとこの曲を演奏したことがあります。今回は、ヴィオラとの共演で、音域の面からもピアノとの絡みがさらに多くなるので、生き生きした音楽を感じて弾くことになるのでは、と思っています。

川本:堤剛先生と小山さんの演奏を聴いて、どうしてもこの曲を自分のものにしたい!という衝動を感じ、すぐに楽譜作りから励みました。

(メンデルスゾーンでは)ヴァイオリン以外の弦楽器に爆裂的なヴィルトーゾの要素を感じる事が少ないのですが、この曲にはその発露を感じ、それに飢えていたかのごとく衝動的に、しかも恐れながらも小山さんとその興奮を分かち合えたらと思い、リクエストさせていただきました。

ブラームスのヴィオラ・ソナタ第2番をはじめ、内的要素の高いプログラムのなかに全く違う要素の(ヴィルトゥオーゾ的な)メンデルスゾーンのソナタを入れたと思わせながら、ベートーヴェン やブラームス と同じく、もしくはそれ以上バッハに傾倒していたメンデルスゾーンを途中で聴いていただける事に興奮を覚えます。ほぼバッハのコラールと思える楽章は弾けると思うだけで武者震いします!

小山:武者震い! 本番がどうなるのだろうと演奏を思い浮かべると、私もブルッと身震いします。川本さんの演奏は、本番で、いつも、予期せぬ(予想を越えた)瞬間が訪れるのでそれも最高の楽しみです。

☆トリミング★推奨1★(c) Wataru Nishida.jpg

メインのブラームスのヴィオラ・ソナタ第2番について話していただけますか?

小山:とにかく名曲、傑作、凄い曲です。ピアノ・パートを弾いているだけで、胸がいっぱいになってきます。ヴィオラ・ソナタ第 1番が最高の作品!と思って昨年までは演奏していましたが、第2番を弾くと、これが最高の作品!と思えてきます。

以前川本さんが、「ブラームスのヴィオラ・ソナタを知って自分はヴィオラ弾きになろうと思った」と言っていたことがあったのですが、前回のコンサートで第1番を一緒に演奏した時に、その意味が解りました。第2番は弾けば弾くほど好きになる作品。川本さんとゆっくり時間をかけて音楽を作り上げたいと思っています。共に音楽作りをしている時にはとてつもない充実感があります。音楽が玉虫色の"一つの玉"となって響くようになればいいなと思っています。

川本:ブラームスのヴィオラ・ソナタ第2番は、Es dur 変ホ長調フラット3つの調性ですが、その特性をどう活かすかに作曲家のセンスが顕れていると思います。変ホ長調の代表的な作品を見てみると、ハイドンは交響曲22番に「哲学者」というタイトルを付けていますし、ベートーヴェンでは、交響曲第3番「英雄」とピアノ協奏曲第5番「皇帝」が変ホ長調です。

変ホ長調は威厳がある曲が多い中、ブラームスのヴィオラ・ソナタ第2番は、とても爽やかな風を感じるテーマで始まります。そしてバッハの「マタイ受難曲」のコラールがモチーフとして散りばめられていて、最後にはポリフォニックで荘厳なコーダが訪れます。小山さんの音で織りなす祈りがコラールに乗って、モチーフに降り注ぐ美しさを今から楽しみにするのと同時に、私の内的エネルギーがそれに呼応出来るように精進したいと思っています。

☆トリミング川本嘉子①_(C)島崎 陽子 - コピー.jpg

2年後の3回目のコンサートは、どのようなプログラムになりそうですか?

小山:3B(バッハ、ベートーヴェン、ブラームス)+権代敦彦さんの作品を演奏する予定です。権代さんの音世界に魅せられ、作品を委嘱させていただきました。3Bの作品での候補曲は2人の中ですでに絞られていますので、全体のプログラムを鑑みつつ相談しながら、権代さんにコラール作品の作曲をお願いしました。世界初演になります。楽譜を見るのが楽しみでたまりません。

川本:今回もバッハから多大なる影響を受けたメンデルスゾーンの作品をアクセントとして折り込みましたが、権代さんの作品がどのような曲になるか、とても楽しみです。権代さんには、学生時代から顕著だった才能にとても強い印象と興味を持ち続けていますし、最近のヴィオラ作品も素晴らしいので、完成が待ち遠しいです。

バッハはヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ、ベートーヴェンはチェロ作品を編曲、とまでは計画していますが、ブラームス のヴィオラ作品は2曲だけなので、ヴァイオリンかチェロのソナタをヴィオラに編曲して演奏するつもりです。発表までお楽しみに。