仕事帰り、生の音楽に浸って心と身体をリフレッシュしていただくための「645コンサート」に、我が国を代表するボサノヴァ・シンガー、小野リサさんが初登場。コンサートへの抱負や音楽への思いをうかがいました。
[聞き手:藤本史昭]
つい先日まで大型クルーズ船でコンサートをされていたそうですね。ライヴハウスから大ホールまで、様々な会場で歌われている小野さんですが、室内楽専用ホールでのご経験は?
小野:けっこうあるんですけど、第一生命ホールは初めてなんです。音響が素晴らしいとうかがっているので、とても楽しみにしています。
今回は、ホールを意識した編成にされたとか。
小野:音響の良さを活かせるように、フェビアン・レザ・パネさんのピアノと、伊藤ハルトシさんのチェロ、そして私というトリオ編成にしました。一般的なボサノヴァではベースとドラムが入ったりするのですが、この編成だと音と音のあいだにスペースが生まれて、その空間を自由に行き交うことができるんです。お二人とも素晴らしいミュージシャンで、いっしょに演奏するたびに鳥肌が立つくらい感動しています。
ボサノヴァ・シンガーとして有名な小野さんですが、近年は様々なジャンルの曲を歌われていますね。
小野:アルバムを10枚制作した頃、このままボサノヴァを掘り下げていこうか、それとも自分の知らない分野に挑戦しようか、とても迷ったんです。でも、一人のシンガーとしていろんな歌を歌っていきたいと思い、"音楽の旅"に出る決心をしました。ちょうどその頃、台湾でコンサートをする機会があって、アンコールに〈何日君再来〉を中国語で歌ったら、みなさんとても喜んでくださって。そんなこともあって、今では他のジャンルの音楽も歌ってみて良かったと思っています。
2011年からは、ジャポン・シリーズと題して日本の歌謡曲やご当地ソングを数多く取り上げられています。
小野:ボサノヴァというのは、どちらかというとあまり感情を表に出さず歌うスタイルですし、洋楽ポップスは、もちろん歌詞も大事ですが、ビートやテンポに言葉を乗せていく...歌詞の意味よりもグルーヴということに重きが置かれることが多いんです。それに対して日本の歌は一つ一つの言葉に意味を込めなければいけないので、歌唱力という点からいっても、とても勉強になります。とはいえ、私のルーツはやっぱりボサノヴァ。軸足はいつもそこにあると思っています。
そのボサノヴァの魅力とは、どんなところでしょう。
小野:メロディーとハーモニーとリズムが、絶妙なバランスで共存するということでしょうか。メロディーはとてもシンプル。ハーモニーは洗練されていてオシャレ。リズムは心地良い。そのバランスの良さが聴く人の心をとらえるのだと思います。
今は日本でも、ボサノヴァはとても馴染みのある音楽になりましたね。
小野:スーパーでも雑貨屋さんでもカフェでも、どこでも流れてる。とてもうれしいことです。私も思わずいっしょに口ずさんだり(笑)。ボサノヴァというのはシンプルなだけに、聴く人のその時の気持ちに寄り添ってくれる音楽なんです。悲しい時はなぐさめになり、うれしい時はいっしょに喜んでくれる。だからいろんな場所にフィットするんじゃないかしら。ただ、一度モロッコの砂漠で歌ったことがあるのですが、その時は景色と全然マッチしなかった。負けた、って思いました(笑)。
小野さんご自身はボサノヴァを歌い始めたのは、やはりブラジルに住んでいた時ですか?
小野:私は10歳までブラジルにいたのですが、その頃はピアノを。普通にバイエルを弾いたりしていました。ボサノヴァを歌い始めたのは、実は日本に帰ってきてからなんです。ブラジルに、ずっと私のお世話をしてくれた乳母さんがいたんですが、彼女も音楽が大好きだったので、私が歌った歌をカセットに録音して送っていたんです。今みたいにインターネットなんてないから、郵送で(笑)。それがきっかけでギターも始めたんです。
さて、今回のコンサートではどんな曲を歌っていただけますか?
小野:なにがいいかなぁ......リクエスト、ありますか(笑)? もちろんボサノヴァも歌いますし、日本の歌も。ジャズやシャンソンもおもしろいですよね。あとビートルズとか、耳馴染みのある曲をたくさん。逆に、みなさんがあまり知らないけれど、新しい発見があるような曲があってもいいかもしれない。とにかく、いろんなジャンルの曲をお届けしたいですね。
このコンサートはオフィス・ワーカーの方がたくさんいらっしゃるのですが、お客様に向けてなにかメッセージを。
小野:時間は止められませんが、旅というのは、ちょっと時間をストップさせてくれるような錯覚をもたらしてくれますよね。そんな感覚を抱くように、音楽でひとときの旅を楽しんでいただけたら! CDとライヴは全然違うものなので、ぜひ生で聴いていただきたいです。音楽は、生ものですから(笑)。