「女性4人なんて、うまくいくわけがない」かつて受講したマスタークラスの講師に、そう言われたというクレンケ四重奏団。ところがこの美女4人によるクァルテットは、27年間メンバー交代なしで活動を続け、今や、最も評価の高いドイツのアンサンブルのひとつとされています。
クァルテット継続の秘訣、初めての日本ツアーのプログラム、母国ドイツで続けている子ども向けプログラムなどについてメールでインタビューしました。
クァルテットを続ける秘訣
1991年に結成以来、メンバー変更なしに続けてこられました。クァルテットを長期間続けるのは難しいと思うのですが、どのようにしてそれが可能になっているのでしょうか。何か秘訣はありますか。
私たちにとっては、クァルテットとして音楽を形にしていくことは、すばらしく価値ある機会で、インスピレーションを得られると同時に、チャレンジングなことでもあります。まったく果てしない数の弦楽四重奏曲が存在するのですから。 ステージ上で27年間変わらないメンバーで演奏し続けるためには、人間関係が、特に個人レベルで、完璧でないといけません。メンバー全員が同じように、不断の努力を持って、その才能をクァルテットに捧げる必要がありますし、一つになって同じ方向を向いていなくてはなりません。いい雰囲気のアンサンブルを維持することは、それぞれのメンバーが家庭を持つようになると、より挑戦しがいがあるものになりました。弦楽四重奏の奏者であることと、母であること。この2つの世界の間でバランスをとらなくてはならなかったからです。この間、私たちの絆はいっそう強くなり、それによって、弦楽四重奏の奏者であり母であることが、どちらもより貴重なものになったと思います。
クァルテットで、一番すばらしいことは何ですか。
弦楽四重奏は、4つの楽章からなる最も親密な形式の曲です。1つのグループの中の個々の人格が溶けあって1つになり、独特の個性ある音を形作っています。私たちの母国ドイツの文豪ヨハン・ウォルフガング・フォン・ゲーテはかつてこう言っています。「弦楽四重奏曲を奏でるのは、4人の成熟した個性が会話をかわすようなものだ」と。
第一生命ホールのプログラムについて
通常、どのようにコンサートのプログラムを決めますか。今回は、第一生命ホールのプログラムをどのように決めましたか。
よく練られたプログラムを作ることは最も重要なことと考えていますので、私たちの最優先事項です。そのため、音楽史、作曲家の友情関係、記念日など様々なことの相互関係を色々と考えた上で曲を選択しています。 第一生命ホールでのコンサートのためには、特に私たちの心に近いと感じている曲を選びました。最初に演奏するヨハン・セバスティアン・バッハの「フーガの技法」抜粋は、後に続く曲の土台の役割を果たします。なぜなら歴史上多くの作曲家が、バッハの作品に自分の方向性を見出して作曲をしたのですから。 次に演奏する「不協和音」は、ほかならぬモーツァルトの作品です。10年以上前リリースしたモーツァルトの弦楽四重奏曲10曲の録音によって、私たちは国際的な評価を得ました。ですから、そのモーツァルトの弦楽四重奏曲をもうすぐ日本で演奏できることを非常に光栄に思っています。(ちょうど最近、モーツァルトの弦楽五重奏曲も録音したところです。) シューマンの弦楽四重奏曲イ短調では、ドイツロマン主義の真髄をお聴きいただけることでしょう。
クレンケ四重奏団によるプログラムについてのメッセージはこちら
ドイツで子ども向けに行っているプログラム
クレンケ四重奏団は、ドイツでユニークな子ども向けプロジェクトを実施していますね。子どもたちは弦楽四重奏や室内楽を楽しんでいますか。
芸術家として、弦楽四重奏にとっての一番若い層のお客さまに楽しんでもらうことは、私たちの特別なミッションだと考えています。子どもたちは、物語が大好きですし、音楽は、子どもたちの魂を深く揺り動かして、その物語を伝えることができるのです。ハンス・クリスティアン・アンデルセンの「みにくいあひるの子」が、私たちの最初の子ども向けプログラムの核でした。物語は言葉だけで語られるわけではありません。バルトーク、ドビュッシー、ショスタコーヴィチ、チャイコフスキー、モーツァルトの作品の抜粋が、音の波であふれる海をわたる小さなボートのように、子どもたちを運んでいきます。音楽は、わくわくする冒険への船出に、生き生きとした生命力を吹き込むのです。 子どもたちの特定のシーンへのダイレクトなリアクション、想像力をふくらませ熱中してくれることは、値段のつけようのないご褒美のようなもので、いつも私たちを魅了してくれるのです。
生で聴くクァルテットの楽しみ
クァルテットをあまり聴かない人、よくクァルテットのコンサートに来る人、どちらにもあなた方のコンサートをお勧めするとしたらどう勧めますか。
生のコンサートに来て非常に楽しいと感じるのは、あまり聴いたことがないという聴衆だけではありません。どのように音楽家が楽器を奏でているか、どのように見た目で分かるほどコミュニケーションをとっているか、どのように音を自分のものとしているか観察することは、CDでは得られない特別な体験になりうるのですから。
初めての日本ツアーに寄せて
初来日ツアーを実施できることを光栄に思います。日本にいらしたことはありますか。日本の聴衆へのメッセージがあればお願いします。
私たちの誰も日本に行ったことはないのです。行ったことがあるという音楽仲間から評判を聞いているだけで。その話を聞いていると本当に楽しみです。世界で最も注意深く音楽を聴いてくれるというお客さまの前で演奏することを楽しみにしています。待ちきれない想いでいっぱいです。