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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

アンドレイ・バラノフ氏

オイストラフ弦楽四重奏団

クァルテット・ウィークエンド2018-2019
オイストラフ弦楽四重奏団

オイストラフ弦楽四重奏団の演奏には惹きつけられずにはいられない。ソリストとしても活動するメンバーが、アツい演奏を繰り広げ、第1ヴァイオリンのアンドレイ・バラノフが圧倒的リーダーシップでまとめ上げていく。聴いて退屈、という気持ちには絶対にさせない、ぜひ生で手に汗握って聴いていただきたい団体だ。バラノフさんに、メールで話を伺った。

ロシアから愛をこめて
オイストラフ弦楽四重奏団が、第一生命ホール初登場!

オイストラフ弦楽四重奏団は、どのように結成されましたか。創設当時の第2ヴァイオリン奏者セルゲイ・ピシュチュギン氏が重要な役割を果たされたそうですね。

バラノフ: 2011年から2012年にかけてこの弦楽四重奏団を立ち上げた時どんなことが連鎖反応的に起こったかを、このクァルテットの創設メンバーで、仲の良い友人でもあるフェドル・ベルーギン(ヴィオラ)とちょうど思い出そうとしていたところなのですが、不思議なことに、順序だてて思い出すのは難しかったですね。ただ大事なことは、私たち4人は一心同体になって感じて、演奏することができる、だからいっしょに美しい音楽を奏でたかった、ということなのです。弦楽四重奏のためには、音楽の天才たちが書いた膨大なレパートリーがあり、それらを演奏したいと思っていました。ピシュチュギン(創設時の第2ヴァイオリン奏者)とベルーギンがすでに属していた、かの有名なショスタコーヴィチ弦楽四重奏団に私が入るというアイディアもあったのですが、結局、私たちは、新しい弦楽四重奏団を創設した方がいいという結論に達し、そして、創設しました! そしてその後とてもラッキーなことに、夢のような名前をいただくことになりました。クラシック音楽史の中でも、大好きな音楽家、芸術家、ヴァイオリニストである、ダヴィド・オイストラフの名前です。これは、様々なことが重なって可能になりました。ピシュチュギンがオイストラフの弟子だったこと。私がオイストラフの息子であるイーゴリ・オイストラフ、孫のヴァレリー・オイストラフといったオイストラフの家族と親しい関係にあったこと。そして、私がモスクワのダヴィド・オイストラフ・コンクールで第3位を受賞し、ブリュッセルのエリーザベト王妃コンクールで優勝したこともプラスに働いたと思います(注:ダヴィド・オイストラフは、バラノフの75年前に同コンクールで優勝している)。ですから、このオイストラフ弦楽四重奏団ができたのは、たくさんの偶然が重なった結果なのです。


メンバーの皆さんは4人ともクァルテット奏者としてだけでなくソリストとしてのキャリアを持っています。それぞれの活動のバランスはどのくらいでしょうか。

バラノフ: メンバーひとりひとりが、バランスを取りながら活動しています。私としてはソロと弦楽四重奏半々くらいがちょうど良いですね。ソロが6割、弦楽四重奏が4割くらいでも良い。というのもソリストとしては、無伴奏、ピアノとのリサイタル、オーケストラと共演する協奏曲まで、様々な形で演奏できますから。他のメンバーも同じような感じだと思いますよ。今はこのバランスに満足しています。すべてのメンバーがソリストでありながら同時に真の弦楽四重奏団であるというのが私たちの特別なところで、それを維持することが大事なのです。ですから私たちは、よく1つのコンサートで、プログラムの中に、それぞれのソロ曲、弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲を入れるのです。また、オーケストラとの特別プログラムでは、弦楽四重奏とオーケストラのための協奏曲、それぞれのソロの協奏曲、そして二重協奏曲、三重協奏曲を演奏したりします。すばらしいゲスト音楽家たちを迎えての音楽祭も創設しました。そこでは、弦楽四重奏としてのコンサートや、それぞれのリサイタル、他の編成での室内楽があり、最後には交響楽団や室内オーケストラとの大きなプログラムもあります。

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ショスタコーヴィチは、ロシアの弦楽四重奏団にとってはもっとも重要な作曲家のひとりだと思いますが、どのような存在ですか。

バラノフ: 私にとってショスタコーヴィチは、特別な作曲家です。幼いころから音楽家として教育を受け、クラシック音楽を聴いてきましたが、私が最初に信じられないほど強い何かを感じたのは、もう12歳か13歳になっていたころ、ダヴィド・オイストラフがエフゲニー・ムラヴィンスキー指揮で演奏するショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番の録音を初めて聴いた時なのです。驚くべき演奏でした。何百回とこの録音を聴いたのですが、音楽というものがいかに深く自分の中に入っていき、またいかに遠くこの世界の外まで広がっていくものなのか、信じられない思いがあります。その後私は、ほかのどのクラシック音楽も、これまでとはまったく違ったように理解でき、感じ、愛するようになりました。今や、ショスタコーヴィチの音楽を演奏する時は、なんだか妙な感覚があるのです。それが自分にとって初めて弾く曲であっても、まるで母国語をしゃべっているかのように、最初からどう弾きたいかきちんと分かるのです。他のどんな録音やコンサートを聴こうとも、それがどんな天才の演奏であれ、私の確信、私が感じたままに弾くという強い意志が、乱されることはありません。他の作曲家では、たとえロシアの作曲家であっても、ショスタコーヴィチのようにこういったことを強く感じることはないですね。精通している言語は母国語と同じように話せますが、まったく同じではありません。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第4番は、最初に聴いた時、そして最初に演奏した時には特に、まったくショッキングな天才的作品だと思いました。私たちは今でもありとあらゆる点で、そう思っています。強く、美しく、深く、すばらしく...本当にこの世のものとは思えない音楽です。この世ではなく、言葉では説明のしようがない世界、つまり、私たちが異なる言語で呼ぶところの「神」「天の使い」「悪魔」「魂」「死後の世界」......といった、秘されたすべての世界へとつながっているのです。


加藤昌則さんの新作を楽しみにしています。この作品をもうすでにご覧になっていたら、印象を教えていただけますでしょうか。

バラノフ: 加藤氏はすばらしい作曲家です! 日本で最初に彼の作品を演奏できることを光栄に思います。ただ、申し訳ないのですが、これ以上音楽について語るのは、ステージ上で実際に演奏した後にしたいと思います。これはとても大事なことです。結局は、ステージ上でお客様といっしょにどのように何を感じるかがあってはじめて音楽が完成するのですから!