2013年、自身のトリオで第一生命ホールに興奮の渦を巻き起こしたジャズ・ピアニストの松永貴志さんが、今度は日本を代表するチェリスト、古川展生さんとのコラボレーションで645コンサートに登場。めったにきけない激レアなコラボを前に、お二人にお話をうかがいました。
[聞き手・文:藤本史昭]
ジャズとクラシック、それぞれのジャンルでご活躍されるお二人ですが、共演のきっかけは?
松永:僕が同志社大学のホールでたびたび公演をおこなっていたんですが、ある年「異ジャンルのコラボレーション」という企画があって。
古川:そこで京都出身の僕にお声がかかったんです。はじめて共演したのは3年前の2015年。それがすごく楽しくて、その翌年もおなじホールでやりました。それで、「これはいつか東京でもやりたいね」とずっと話していたのですが、今回ようやく念願がかなうわけです。
異ジャンル・コラボということで、むずかしさはありませんか?
古川:僕はジャズも大好きだし「古武道」というユニットではアドリブのようなこともやっていますが、ジャズの専門的な理論をしっかり勉強したわけではありません。でも松永さんが、あまりむずかしく考えずに好きにやってくださいと歩み寄ってくれるので、本当にやりやすいです。
松永:とおっしゃいますが、実はアドリブをバリバリ弾かれるのでびっくりしました(笑)。僕はチェロとのデュオははじめてだったので最初はどうなるかと思っていたんですが、すごくおもしろいです。チェロって、メロディーもコードもベース・ラインもいける。ベースとのデュオはよくやりますが、それよりももっと広がりが出る感じがします。
今回のプログラムも、当然ジャンルレスなものになるのでしょうね。
古川:ピアソラの〈リベルタンゴ〉はそれぞれソロでもやっていますし、過去2回のデュオ・コンサートでも取り上げています。おたがいが持っている譜面をうまく合わせて、サイズだけはちゃんと決めて。
松永:ジャズ的なやり方ですね。僕もあまりカッチリと譜面通りには弾かなかったりするので(笑)。でもそこが楽しいんです。
古川:それからチック・コリアの〈スペイン〉。ジャズの名曲中の名曲で、僕も何度か演奏したことがあるのですが、松永さんの演奏を動画で観たらかなり前衛的で(笑)。「これはいっしょにやれるのか?」と一瞬心配になったんですが、そこはうまく歩み寄ってくださって...これはおもしろいと思いますよ。それと、松永さんのオリジナル曲もやりますよね。
松永:〈神戸〉と〈時の砂〉という曲をやる予定です。どちらもバラードで、普段はピアノでメロディーを弾いているのですが、チェロに弾いてもらうとまた全然違って素晴らしいんです。あと、せっかくだからなにかクラシックの曲もやりましょうよ。
古川:じゃチェロの定番曲、サン=サーンスの〈白鳥〉を松永さんのアレンジでカッコよく(笑)。
松永:了解しました!
古川:その予定です。でも、なにをやるかは当日のお楽しみということで(笑)。
ところで、いっしょに共演されておたがいにどんな印象を持たれていますか。
松永:古川さんはとにかくテクニックが素晴らしいので、いっしょにやってて毎回「オー!!」って驚きます。パーフェクト。すごい(笑)。
とおっしゃっていますが、古川さんから見た松永さんは?
古川:いやもう、天才ですよ。それでいてキャパシティがすごく広く「僕に合わせてくれなきゃ困る」というのが全然なくて、たがいの持ち味をすごく上手に融合してくれる。テクニックのことを言ってくださいましたが、松永さんもすごいですよ。音楽的な知識も含めたテクニックを持ってらっしゃる。
松永:でも、クラシックのすごくむずかしい譜面を持ってこられたら、コードしか読めません!と逃げるかもしれない(笑)。
松永さんは5年前にも第一生命ホールに出演していただいていますが、ホールの印象はいかがですか?
松永:とてもやりやすいです。僕は演奏する時、空間の響きをきいて次の音を考える――つまり響きが発想の原点になっているので、そういう意味ではこういうアコースティックのよいホールはテンションが上がります。
古川さんは第一生命ホールの印象は?
古川:ずいぶん前にソロで弾かせていただいた時は、本当に弾きやすいと感じました。また友人のカルテットを聴きにきたりもしているのですが、客席にいてもとても聴きやすいホールですね。
最後に。この645コンサートはオフィスワーカーのお客様が多いのですが、どんなふうにきいてほしいですか?
松永:仕事帰りということなので、リラックスして聴いていただければと思います。そんな曲もたくさん用意していますから。でも激しい曲もあるので、ホールを出る時には熱くなって(笑)。いろいろなタイプの曲を演奏しますので、楽しんでいただけたらいいですね。
古川:なにしろ金曜の夜ですから(笑)。休日前のひとときを、仕事疲れが吹き飛ぶような、そして二人がやっている楽しさがお客様に伝わるようなステージにできたらと思っています。