人気実力ともに日本を代表するピアニスト小山実稚恵さんが、この秋から第一生命ホールで「小山実稚恵の室内楽~ブラームス、熱く深い想いをつなげて」シリーズをスタートします。きっかけとなったのは、2年前のアルティ弦楽四重奏団(以下アルティQ)と演奏したブラームスとドヴォルザークのピアノ五重奏曲。今回のシリーズ第1回には、アルティQとのシューマンが予定されています。
アルティQとの共演が圧倒的にすばらしく、こうして室内楽のシリーズ化につながりました。スタートにあたってのお気持ちは。
小山:年々、室内楽はいいなと思うようになりました。以前は、合わせることが楽しみだった。自分と違う音楽との触れ合い、そこからどうやって一つの音楽を作り上げてゆこうか、と考えていたのですが、最近は「感じる」ことに喜びを感じています。弾くことの楽しみではなく、「感じる」こと。瞬間を感じ取るからこそ、予測を超えた音楽を築けるのです。つくづく音楽はいいなと思います。私の演奏会のバランスは、協奏曲が5割くらい、ソロが4割くらい、室内楽はおそらく1割。その中で、室内楽はとても楽しみです。一瞬一瞬を共に感じながら、音楽的に尊敬できるアーティストの皆さんと共演できることをうれしく思います。
シリーズはブラームスに導かれます。
小山:ブラームスは、深くじっくりと構えたやさしさが感じられて、胸に沁みますよね。聴き終わった後に、静かだけれど熱い感動がいつまでも残って。室内楽のシリーズとしては、今回がスタートとなるわけですが、2年前のアルティQとのブラームスのピアノ五重奏曲が、実質上のシリーズのはじまりと言ってもいいくらいです。
2年前は小山さんから「ぜひアルティQと」と言っていただき、初共演が実現したのでした。実際に演奏してみていかがでしたか。
小山:全員がそれぞれ本当にすばらしい演奏家でいらっしゃるのはもちろん、ただソリストが集まっているだけでなく、おひとりおひとりが極めていらっしゃる。だから、音楽的にもギリギリのところを攻めながら、クァルテットとして絶妙のバランスを保っているのです。本当に圧倒的なチームだと思います。アルティQは、それぞれの音色が特徴的ですね。豊嶋さんのヴァイオリンは、自然界の響きと言いますか、大地に根差した厚みのある音色で訴えるのに対し、クリスタルな輝きをもって変幻自在な響きを作り上げる矢部さん。潤いと艶に満ちた響きでありながら、切々と深く歌う川本さんのヴィオラ、微妙な心のうつろいが,心にひたひたと沁み入る上村さんのチェロ。4人が全く違うタイプの音色なのに......調和です。音楽的に「感じる」調和なのですね。
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名手がそろって20年、それぞれの音色を持ちながら四重奏として絶妙の調和を聴かせるアルティQに小山さんのピアノが入って、5人が感じて響き合う。ここでしか味わえない室内楽の極上の喜びを、ぜひお聴きください。