16歳でデビューしてから、昨年10周年を迎えた三浦一馬さん。自ら立ち上げた「東京グランド・ソロイスツ(TGS)」の初舞台を前に、意気込みをうかがいました。
2年前に初出演していただいた時に、第一生命ホールがある晴海を気に入ってくださったそうですね。
運河に囲まれた晴海が、タンゴ発祥の地アルゼンチンのラ・プラタ川のボカ地区に似ている、と思ったんです。ボカはヨーロッパからの移民が最初に到着した港町。様々な文化や言語が混ざり合って、その中からタンゴが生まれました。同じように晴海から新しい文化が生まれるといいなと。実際、気持ちのいい海風だけでなく、何か新しい風を感じる場所ですよね。ホールは、客席と舞台の距離感や、ステージの高さが絶妙。『ここ好き』って(笑)。
TGSでは、ピアソラを取り上げていくのですね。
クラシックの世界から見ると、ピアソラはイコール、タンゴと見られがちなのですが、実はピアソラの音楽は、新しいジャンルが突然ポンと生まれたようなものなのです。タンゴが進化しても、ピアソラにはならない。もちろん非常に密な関係ですが、ピアソラの音楽には、それでは括りきれない強烈なキャラクター、オリジナリティ、魅力がありますよね。ボサノヴァが、生まれた当時モダンジャズと呼ばれながら新しいジャンルになったように、僕の中ではピアソラは何か新しいジャンル。まだまだ生まれたばかりの音楽である「ピアソラ」を、ここから更に進化させていきたいですね。ピアソラ本人の土着的でパワフルな演奏と、クラシックの演奏家のどこか洗練されたピアソラと、その両方の要素を取り入れた真ん中のいいとこ取りをしたいですね。それができるメンバーだと思いますし。
昔から共演してくださっている、僕が絶大なる信頼を置いている方ばかり。TGSは、あくまでキンテートなどをベースとしていながらも、実は、ピアソラがやっていた弦5部、ピアノ、パーカッション、ギター、バンドネオンでの「コンフント9(ヌエベ)」の発展系としての室内オーケストラでもあるのです。ソリストとしての皆さんといっしょに創り上げたいと、『ソロイスツ』と名付けました。もう楽しみでしょうがない。
名づけの際、いずれは日本だけでなく世界に出ていくために「東京」の文字は欠かせなかったとか。「ピアソラ」という新たなジャンルを極めていくTGSのスタートを、ぜひその目と耳でご確認ください!
[文/田中玲子(トリトン・アーツ・ネットワーク)]