2014年の日本ツアーで日本の聴衆を虜にしたシューマン・クァルテットが、第一生命ホールに再び登場!エリック(第1ヴァイオリン)、ケン(第2ヴァイオリン)、マーク(チェロ)のシューマン3兄弟と、リサ・ランダル(ヴィオラ)が、メールでのインタビューで抱負を語ってくれました。
2014年第一生命ホールでは素晴らしい演奏をしていただきました。あの時のベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番Op.131は、楽章が進むにつれて聴衆の集中力も高まり、一体となって長い旅をしたような素晴らしい演奏でした。第一生命ホールの印象を教えていただけますか。
ケン: 第一生命ホールでのコンサートはとてもよく覚えています。日本ツアーの最終日でしたね。東京のすばらしいホールでツアーを終えることができて幸せな気持ちでした。第一生命ホールは間違いなく、世界でも最もすばらしい室内楽ホールのひとつです。
お客さまはとても集中していて、お行儀よかったですね。特に最後の、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲作品131、私たちはこの作品をベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中でも「エヴェレスト」と呼んでいますが、この曲の間、静まり返っていました。なぜだかわからないのですが、多くの日本人はベートーヴェンやその音楽と特別につながっているように感じます。まるで本能的にベートーヴェンの言語とメッセージを理解しているかのようです。いつも言っているのですが、良いコンサートには、第一生命ホールのような良い聴衆が不可欠ですね。ですから6月にこのホールに戻ってきて2回のコンサートを行うことができることはとてもうれしいことです。
第一生命ホールでの2回の公演プログラムは、新CD「ランドスケープ」からの曲目で構成されています。このCDのコンセプトと、今回のプログラムについて教えてください。
リサ: 私たちの新CD「ランドスケープ」は、コンセプチュアル・アルバム(コンセプトにしばられたアルバム)にも見えますが、同時にそうでもないのです。私たちが気に入って関連があると感じた曲をまとめてみたかったのです。そうしたら、対照的ともいえないのですが、1つのアルバムにまとまると意味を成す、この4曲にたまたま落ち着いたわけです。ハイドンの「日の出」は、ランドスケープ(風景)に光をもたらして新たな始まりとなり、武満徹の「ランドスケープ」はアルバムをこのように名づけたインスピレーションであるばかりでなく、ゆったりとしたたたずまいの中に、異なる絵を見せてくれます。それからバルトーク第2番は暗黒と、この作品が書かれた(第一次大戦)時代の灰色の暗さの象徴であり、最後の曲、ペルトの「フラトレス(兄弟)」は、「兄弟」を一つにし、永遠なるものと刹那を同時に表します。わたしたちのルーツがどこにあるか、という個人的な関連も曲の中に見出せるのは素晴らしいと思います。この4曲は4つの異なるキャラクターも象徴していて、1つのCDに入れることで、それぞれが完成するのです。そう、まるで弦楽四重奏のように。
コンサートのプログラムとしては、コントラストがあって、違う光が差すようにしたいと思いました。「ラズモフスキー第1番」は、当時とても実験的で、作品18を書いた後のベートーヴェンに新たな方向を示したのです。モーツァルトの最後の弦楽四重奏曲はベートーヴェンの偉大な作品と同様、演奏家に最高のテクニックと音楽理解を求める、この弦楽四重奏曲というジャンルを書くことに作曲家たちがいかに魅了されたか、をよく表しています。武満徹は、ちょうどその間に収まって、これらの曲の間のコントラストとなり、異なる世界を、私たちに見せてくれています。
エリックさんは、武満徹の「ランドスケープ」から、周文の「四季山水図屏風」や日本の昔話を想い出すと言っていますね。ちなみに、日本人のお母様を持つシューマン家の皆さんは何か思い出す昔話はありますか。日本の想い出があれば、お話しいただけますか。
エリック: 大阪の近くで、箏と三味線が野外で演奏されているところに、母が私たちを連れて行ってくれたのを覚えています。箏と三味線の音がとても気に入りました。あの音で、当時の雰囲気を思い出しますね。とても暑い日で、ムシムシして、虫の声もして、小さな川、アイスクリーム、緑茶、そして冷たいお茶......。そんな印象が、私たちの記憶の中に、あるランドスケープ(風景)を呼び起こします。より分かりやすく言うなら、ある感覚の記憶として。その演奏家たちは、箏と三味線で、私たちが大好きだったメンデルスゾーンやモーツァルトといった曲も演奏しました。ある特定の音は、とても特別で、ピッツィカートの(弦をはじく)パッセージは、武満徹の曲を思い起こさせました。
突然のダイナミックな音楽の変化は、「鬼」や般若の面を思わせました。とても唐突で印象的なのです。また能面も思い出しました。確かに、全般的には歌舞伎や能や文楽の影響があると思います。特定のものではないのですが、歌舞伎や能や文楽を見た時に経験した何かを思わせます。
この音楽は、日本の風景画に、日本画家の典型的なインスピレーションを見た時に起こる感覚と似た感じを思い起こさせます。
日本の昔話では、よく覚えているのは、例えば「雪女」「玉藻の前」「口裂け女」など。これらの話はものすごく怖くて神秘的で、武満徹の「ランドスケープ」の、ある音や和音を聴くと、子どもの頃最初にこれらの話を聞いたり見たりした時の感覚を思い出すのです。武満の意図したところなのか、あるいは彼のインスピレーションになったのか分かりませんが、当然知っていたでしょうから、影響を与えた可能性もあると想像できるのです。
シューマン・クァルテットは若手弦楽四重奏団としてますます活躍しており、2016年シーズンから3年間、ニューヨークのリンカーン・センター室内楽協会(以下CMS)のレジデントに選出、2015/16年はエステルハージ宮殿(墺)のレジデントを務めました。エステルハージ宮殿のレジデントについて思い出があれば教えてください。またリンカーン・センターのレジデントとしては、どのように3年間活動していきたいと思っていますか。
マーク: エステルハージ宮殿のクァルテット・イン・レジデンスを務めたのは、私たちそれぞれにとっても非常に光栄なことでした。私の個人的なハイライトは、すばらしいハイドン・ホール、そして宮殿の後ろの広い庭園ですね。
先月、2度目のニューヨークでの公演を終えました。このようなすばらしいレジデンシーに加わることができ、誇りに思っています。次のCMSでのコンサートでは、ギルバート・カリッシュ、オライオン弦楽四重奏団や、他にもたくさんのCMSアーティストのメンバーと共演します。シューマン・クァルテットとしては、現代曲のみの公演を一つ予定しています。聴衆に気に入ってもらえるとうれしいですし、11月にCMSに戻って演奏するのを楽しみにしています。
私たちの願いは、弦楽四重奏団として完全に独立することです。そのために、私たちの音楽表現と同様レパートリーも発展させていけたらと思っています。