プログラムの聴きどころを伺えますか。
名曲ばかりの鉄板プログラム。でも、このように無伴奏ヴァイオリンの「シャコンヌ」から、ピアノとのデュオでベートーヴェンの「スプリング・ソナタ」、そしてアンサンブルでの「弦楽セレナード」まで、一度に聴けるコンサートは珍しいですよね。
「シャコンヌ」は、ヴァイオリン奏者にとっては究極の曲で、1本のヴァイオリンで、オーケストラやパイプオルガンに匹敵する豊かな響きが生まれます。弾く度に新しい発見、感動がある。
ベートーヴェンの「春」は、ヴァイオリン・ソナタの中で最も親しまれている曲の一つ。「春」らしい雰囲気の中にも、嵐があったり、静けさがあったり、めくるめくような変化が楽しめます。ピアノとヴァイオリンという楽器を超えた奥深さと表現の多様さがある傑作です。共演する浦壁信二さんは、ピアニストとしてだけでなく音楽家として、非常に優れた感性、アイディアと知性を持っている方です。
チャイコフスキーのいわゆる「弦セレ」は、有名な冒頭の部分だけでなく、4つの楽章それぞれのキャラクターが非常に魅力的です。14人の奏者ひとりひとりの感性、音楽的なアイディアが、ぶつかったり調和したりして、弦楽合奏の響きの豊麗さの効果が一番出る曲のひとつですね。今回は、指揮者なしで、私がコンサートマスターで演奏いたします。
1時間で様々な楽しみがありますね。
聴いている方も、この1時間はあっという間にすぎるのではないかと思います。音楽の中に緊張と弛緩とが交互に出てきて、そのバランスがいいですね。
特に仕事帰りのオフィスワーカーのためのコンサートなので、リラックスして聴いていただく部分と、音楽にぐっと集中できる部分とがあるのがいいですね。
仕事も音楽もメリハリが必要ですから(笑)。
「弦楽セレナード」で共演するメンバーは、過去にセミナーを受講した受講生たちです。
なつかしいですね。セミナー受講時は学生だった方もいますから、時々仕事で一緒に演奏する機会に、成長を感じますね。
この630コンサートには、会社の同僚に誘われて初めてクラシックコンサートに来る方もいると思います。松原さんご自身の、クラシックとの出会いは?
父がタンゴのヴァイオリン奏者だったので、自分もヴァイオリンを始める前から、まわりに音楽がありました。ヴァイオリンを師事した渡辺季彦先生の教育はスパルタ式で、小学校4年生から、2時間のプログラムで毎年リサイタルを開くことを課せられました。一方で、その前から父の所属するタンゴのオーケストラの本番で一緒に弾かせてもらったりしていましたので、音楽に「クラシック」や「タンゴ」という区別をしては聴いていなかったかもしれません。今でもあまり線引きはしていないですね。
ジャンルにこだわらず、いい音楽との出会いがあると良いですね。
そうですね。クラシックは「難しい」音楽ですけど、ぜひその難しさを楽しんでいただきたい。例えば僕は、南米のエンジェルフォールという滝をいつか見てみたいのですが、なかなか行けない秘境中の秘境だからこそ、より魅力を感じる。クラシックも「難しい」と感じても、少し頑張って聴いていると、知識のありなしとは関係なく、何か素晴らしいものが聴こえてくるかもしれない、と思いますね。単に耳に心地よい音楽も必要だし、それで癒される人はいると思いますが、困難な道を越えた後に見えてくる素敵な時間が待っているかもしれませんよ。
ヴァイオリンのお話 - 松原勝也僕のヴァイオリンは、ジョヴァンニ・バッティスタ・グァダニーニが、1768年にイタリアのパルマで製作したものです。1700年代の古いヴァイオリンは値段が高く「ストラディヴァリウス」なら何十億もするくらい。以前借りていた「グァダニーニ」を返却する時、購入するならやはり同じ製作家のものをと思って探しました。十何丁も見てあきらめかけていた時に出会い、パッと楽器の「顔」を見てこれはいいなと。いっしょにいたいか、自分と合っているか、弾く前に見てわかりますね。弓もそう。持った瞬間にこれが自分の腕の一部だと思えるかどうかです。