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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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アーティスト・インタビュー

蒲生克郷

エルデーディ弦楽四重奏団
~弦楽四重奏のみに託されたベートーヴェン最晩年の高貴なるメッセージ

今年度から、何年かにわたってベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲に取り組むエルデーディ弦楽四重奏団。第1ヴァイオリン奏者の蒲生克郷さんにお話を伺いました。

 

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ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲(5曲および「大フーガ」)は、クァルテット(弦楽四重奏)をやる人間にとって特別なレパートリーです。往年の名クァルテット、アマデウス弦楽四重奏団のレッスンを受けた時も、第1ヴァイオリンのノーバート・ブレイニンが、「自分たちは、ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲を演奏するためにクァルテットを弾いているようなもので、特別な曲だ」と言っていましたね。何が特別かというと、ベートーヴェンが、交響曲もピアノ・ソナタも全て書き終わってしまった晩年、精神的に高みに達していったところで書いた作品群は、弦楽四重奏曲だけなのです。
(「第九」がOp125、後期の弦楽四重奏曲は第12番Op.127、第13番Op.130、第14番Op.131、第15番Op.132、「大フーガ」Op.133、第16番Op.135)

いつか演奏してみたい曲を伺うと、「ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲」と答えるソリストもいます。

というのは、ヴァイオリニストが弾くベートーヴェンの後期の作品がないからですね。ヴァイオリン・ソナタは10曲あるのですが、実は、一番深みに到達している後期の曲を弾くことができない。有名な「クロイツェル」もOp.47、最後の第10番もOp.96。ピアノ・ソナタであれば第29番「ハンマークラヴィーア」Op.106以降は、精神的に深みにあり、また難解なものに入っていく。そういう想いは、ヴァイオリン弾きはできないので、クァルテット奏者の特権でしょうね。

気心知れた4人の仲間で弾けたら、またいいのでしょうね。

もちろんそうですね。弦楽四重奏曲を演奏したいがために集まっても、1回限りでは満足するような演奏会はなかなかできないと思います。

今回は、第12番Op.127と第14番Op.131というプログラムです。

第12番は要するに、ベートーヴェン後期の入口に立つ曲です。後期の曲目を取り上げる幕開けとして、最初に演奏すべき曲ではないかと思いました。この第12番は、まだ古典的なソナタ楽曲の形式を取っており、4楽章形式です。ただ、内容はすでに随分変わっていて、晩年のベートーヴェンの様式の始まりとなっていますので、ベートーヴェン後期の曲目を見るには非常にいいと思います。これ以降、作品がどんどん変化していくわけです。
作曲された順番は、作品番号順ではありません。第12番Op.127の次 に書かれたのは、第15番Op.132です。Op.132は、第3楽章「病が癒えた者からの神への感謝の讃歌」からガラっと変わりますね。4楽章形式ではなくて、5楽章形式ですし、ソナタ楽章の形式から逸脱した形式を取るようになってくる。それが更に進化したのが第13番Op.130。小さな楽章が並列されていくような形で第5楽章「カヴァティーナ」までがあって、最終楽章はそれまでの楽章に匹敵する長さの「大フーガ」になります。そして、第14番Op.131に行きつく。

後半に演奏するのが、その第14番ですね。

最後の作品は第16番Op.135になりますが、第14番が規模としても最高傑作にあたるものではないかと思いますね。形として一番いびつで、とらえどころなさそうで、実は最後まで楽章どうしが相互に関連しています。色々な物語を展開していきながら、ひとつの大きな構造物にまとめ上げているのが最も優れたところでしょうね。非常によくできた、しかも通常では考えられない意外性を含んだストーリーが展開される。映画にもあるでしょ、最後まで見終えて初めてなるほどという作品が。分かりやすくはないけれど、聴けば聴くほど、その良さが分かってくるという曲。それに触れてしまうと、ただ難解ではすまされないところがあって、好きという人が多いのでしょうね。

晩年のベートーヴェンがどのように変化を遂げていくか、弦楽四重奏曲から見えるわけですね。

実際に1曲ずつ変化の過程が見えます。この時期のベートーヴェンには弦楽四重奏曲しかありませんので、この世界を知らないと、ベートーヴェンを全部知ったことにならないでしょうね。「第九」は、特別な作品ですが、実は、「第九」の後の世界があったということです。


エルデーディ弦楽四重奏団が「弦楽四重奏をやる究極目的みたいなもの」という、ベートーヴェンの「第九」後の奥深い世界をご堪能ください。



エルデーディ弦楽四重奏団弦楽四重奏団の練習のヒミツ

練習はどのくらい?という質問に「4人で手帳を突き合わせて、空いているところすべて。ちなみに先日練習したのは、2年くらい先に演奏する曲です」と蒲生さん。オーケストラなら、1、2回の練習で本番ということがほとんどなのに、ずいぶんと前から準備されるのですね!ふつうは演奏会のだいたい半年くらい前から準備に入るそうですよ。誰かがリーダーとなって方向を決めてしまえば早いのでしょうが、4人で意見を出し合いながら時間をかけて納得いくまで作っていくのが、弦楽四重奏の醍醐味なのですね。