おふたりの出会いは?
小松:17年ほど前、1970年代のアルゼンチンタンゴを大編成のバンドでやろうと、前代未聞のことを考えたんです。バンドネオンに、ピアノ、ベース、ギター、ドラム、ヴァイオリン2人、ヴィオラ、チェロ、ヴォーカルの10人編成でツアーをしようと。僕はバンドネオンも独学で、音楽大学出身ではなかったので、とにかく一緒に演奏してくれる人を探していました。大友さんは知人に紹介してもらって、いきなり「僕と一緒にタンゴを演奏してくれませんか」と電話をしましたね。僕もCDデビュー前で、当時はタンゴやピアソラと言っても誰も知らなかったので、ライブハウスも門前払いで...。
大友:僕も知らなかった。小松君は譜面を書き起こすのによく徹夜していたよね。
小松:タンゴは楽譜が売られていないので、CDを聞いて10人分書いていました。当時の譜面が今も残っていますよ。「なんでこんないいものを世の中が知らないんだ」という自分の信念だけでやっていましたが、今思えばよくやれたなと思います。大友さんは最初から僕のことを信じて、弦楽器の奏者をまとめてくれて、ありがたかった。ヴィオラの吉田有紀子さんも紹介してくれました。
写真:小松さん手書きの楽譜
弦楽四重奏とバンドネオンというのはめずらしい組み合わせですね。
小松:ピアソラの「ファイブ・タンゴ・センセーションズ」は、僕も5楽章すべてを演奏するのは初めて。バンドネオンの楽譜はアドリブが入ることが前提なので、大まかなことしか書いていません。タンゴの世界は楽譜があっても、そのまま弾くのではなく、アレンジするかアドリブするのが普通なのです。
「ブエノスアイレスの冬」は僕が編曲しました。アドリブありのバンドネオンとは違って、弦楽器のパートは譜面に全部書きました。ヴァイオリンには、フィーリングで弾いてほしいなと思うところを、それらしく書いてある(笑)。
お客様にメッセージを
小松:弦楽四重奏にバンドネオンが入ってピアソラの曲をやることが、めずらしいとか、ジャンルを超えた、ということでなく、ただ一生懸命やるだけだと思っています。大友さんも、吉田さんも、ジャンル差別や偏見などが見事にない。「どんなジャンルでも簡単なものなんてない」と思っているところがすばらしいです。
大友:僕らは弦楽四重奏でも本気でやったらこんなことができる、ということをやりたくてやっています。絶対みんなが知らないおもしろさがある。
小松:昔みたいに、たくさんリハーサルをやりたいな。意味がないかもしれないようなリハーサルも必要だと思うんです。アマチュア時代に立ち返ってやりたいよね。
大友:僕たちは弦楽四重奏が本業なので、何度でもリハーサルしましょう。リハーサルの回数制限がある弦楽四重奏団もあるのかもしれないけど、エクにはないのでご心配なく(笑)。
[聞き手・文/田中玲子]