ショパン・コンクールで4位に入賞された当時、ポーランドで勉強していらしたのですよね。
山本:ショパン音楽院3年生の時です。コンクール会場も自宅から近く、しっかり睡眠や食事をとって練習にいそしんだので、アットホームな雰囲気で、コンクールというよりは、ちょっと豪華な演奏会といった感じで弾かせていただいた記憶があります。その前から演奏会の機会を時々いただき、ポーランドの方が熱心に聴いてくださって、「日本人がポーランド人の心を分かってくれるのがうれしい」とおっしゃっていたので、コンクールでも安心して演奏することができました。
演奏する側も癒される曲で、気持ちが軽くなるように
今回のプログラムはショパンとリストですね。
山本:一般的には、リストの方が力強く、華やかで、ショパンはメランコリックで、か弱いというイメージがあると思いますが、私は弾いていて逆だと感じます。ショパンの方が、性格は芯が通っていて、頑固で、融通が利かないタイプ。曲を弾いていてもあいまいなところがひとつもないのです。ただ、今回は少しほのぼのとした、明るい感じの曲、聴いて楽しめる曲を選びました。今、日本では色々な出来事があり、皆さん知らないうちに心に疲れがたまっている状態かもしれませんが、私自身が演奏していて癒される曲を聴いていただいたら気持ちが軽くなるのではないかと思いまして。リストも、特にこの「ため息」と「愛の夢」は何も考えず、音楽にひたって過ごすことができる曲なので、リラックスして聴いていただけたらと思います。
最後の曲以外は、全部いわゆる小品です。小さい中に色々なものが詰まっていますので、1曲1曲を、例えば懐石のお料理のように、小さくておいしいものを少しずついただく感覚で聴いていただけたらと思います。最後にメインディッシュとして「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を楽しんでいただくという流れです。短い曲の中に自分の気持ちを凝縮して込めるのは大変だと思いますが、ショパンはあらゆる作曲家の中でも天才的ですね。
変わらぬショパンへの想い
今、一番好きな作曲家は?
山本:やはりもう、ずっと変わらずショパンです。好きという感情を超えて、自分に不可欠といいますか...。お客さまに聴いて喜んでいただくのが一番ですが、練習している時にも自分自身が癒されます。自分の心の状態をひとつひとつの音が拾って反応してくれる回数が、ショパンは一番多いと感じます。
ピアノを習っているお子さまへのアドヴァイスはありますか。
山本:小学3年生の頃、ピアノの先生に教えていただいた「ピアノの前に座って弾くだけでなく、例えばおいしいものを食べたり、きれいなものを見たり、旅行に行ったりすることによって、ピアノの音も全て変わってくるから、とにかく色々な経験をしてくださいね」という言葉は、ずっと心の中に残っていて、一番大切にしています。指の練習をしたら、心にも栄養をとらないと、楽しく弾けないですよね。
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ショパンへの愛情あふれるお話をうかがって、ますます期待が高まります。繊細で感受性豊かなショパンとリストをお楽しみください。
[聞き手/文 田中玲子]