ヴァイオリンのいいところばかり楽しめるプログラムですね。
小野:ウィーン留学中に出会ったピアノの碓井俊樹さんとの共演ということもあり、「ウィーンの思い出」をテーマにしました。
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ「春」には、ウィーンに留学した時、初めて本格的に取り組みました。ベートーヴェンが遺書を書いたというハイリゲンシュタットに行ったり、ベートーヴェンガング(ベートーヴェンの散歩道)を歩いたりして、楽譜からだけでなく自分の肌で感じるものがたくさんありました。ウィーンの冬は本当に寒くて、春が来るのが待ち遠しい。そんな思いの中から、このヴァイオリン・ソナタ「春」の最初のテーマも出てきたのではと想像しています。
ベートーヴェンの後に演奏しますウィーン生まれのクライスラーの作品はどれも素敵で、常に心の中の大切な場所に置いています。
「プレリュードとアレグロ」は、小学校などで演奏すると、特に男の子たちは後半の盛り上がるところが大好きで「すげえ」なんて声が聞こえてくるんですよ。
ポーランド出身のザルジツキが書いた「マズルカ」は、6,7歳の頃にヘンリク・シェリングの音源を耳にしたのをきっかけに取り憑かれたように好きになった思い出深い作品です。
サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」は日本各地で演奏していますが、「やっぱり生で聴くと違いますね」との感想をお客様からいただくことがよくあります。演奏会の締めくくりにはリクエストの多い、この「ツィゴイネルワイゼン」をお楽しみ戴ければと思います。
12歳で、日本を離れてイギリスのメニューイン音楽院へ留学されました。
小野:11歳の時初めて演奏旅行でヨーロッパへ行き、子ども心にこういうところで勉強したいと思いました。それまでは練習が大嫌いだった私が、メニューイン音楽院受験にあたって一生懸命練習しました。音楽院は8歳から18歳までの全寮制で、当時は50人ほど在籍していました。メニューイン先生のお話は常にたいへん興味深く、子どもたちは先生の一言一言に耳をすませて聴いていました。
卒業後ウィーンで学ぶ選択については、たいへん喜んでくださり「良い刺激を受けなさい」と励まして下さいました。
小学校での演奏などアウトリーチ活動に熱心でいらっしゃいますね。以前第一生命ホールの「オープンハウス」や、ホールに近い特別養護老人施設で演奏していただいたこともありました。
小野:メニューイン先生の教えで、中学高校時代から病院や老人ホームなど色々なところでアウトリーチ活動をしており、ウィーン留学時代も続けていました。日本でもそのような活動を常に続けていきたいと考えています。今はメニューイン音楽院で教えていますので、 日本に帰国した際には コンサートの合間を縫ってアウトリーチをこなすよう心がけています。
現在使っている楽器は?
小野:イギリス人から貸していただいている「G.B.ガダニーニ(1772年製)」で、使い始めて6年目になります。最近楽器と自分が一体化しているように感じて、朝起きると弾くのが楽しみで。小さい頃の練習嫌いがうそのようです(笑)。
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チャーミングな笑顔の合間に、12歳から単身ヨーロッパで生きてきたたくましさが垣間見え、若くしてメニューイン音楽院教授を任されているのも納得。数多くのアウトリーチ活動での経験から、お客様に喜んでもらうためにと厳選されたプログラムを、素晴らしいテクニックと感性のヴァイオリンでお楽しみください。