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トリトン・アーツ・ネットワーク

第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献するNPO法人です。
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レポート

アウトリーチセミナー
室内楽アウトリーチセミナー
(C)藤本史昭
室内楽アウトリーチセミナー

<集中セミナー>
若い弦楽器奏者のための
子どもと音楽との出会いをつくる
「アウトリーチセミナー2022」

子どもたちの心に残る音楽とは?
子どもたちと本気で向き合い、音楽の深いところまで伝えるにはどうしたらよいでしょうか? このセミナーでは講師と弦楽四重奏を組み、音楽への理解を深めながら、実践を通しアウトリーチのノウハウを学びます。

基本情報

日時 2022年7月16日(土)、20日(水)~22日(金) セミナー
2022年7月23日(土) 第一生命ホールオープンハウス2022 出演
出演 講師:松原勝也(ヴァイオリン)
受講生:安田沙織(ヴァイオリン)岩澤なぎさ(ヴィオラ)神田尚己(チェロ)
概要 ■内 容
アウトリーチについて学び、講師と弦楽四重奏を組み、小学生を対象としたプログラムを受講生同士で考え、第一生命ホールオープンハウスで発表(小学生対象・約30分間のプログラム)。
*上記の他、2022年5月~2023年3月の期間、打合せ・リハーサル・小学校でのアウトリーチの実践・第一生命ホールロビーコンサート出演等あり。

レポート

【プログラム】

♪モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのためのニ重奏曲ト長調K 423 より 第1楽章(抜粋)
♪ドヴォルザーク:三重奏曲 ハ長調Op. 74, B 148 より 第1楽章(抜粋)
♪ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 変ホ長調Op. 3より 第1楽章(抜粋)
♪ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第12番 変ホ長調 Op.127より 第1楽章

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「風は4拍子に吹かない」
―2022年度トリトン・アーツ・ネットワーク アウトリーチセミナー レポート―

 「アウトリーチOutreach」とはその名の通り、誰かに手の差し伸べることである。福祉の分野ではよく、支援が必要な人々にサービスを届くという意味で使われている。トリトン・アーツ・ネットワークにおけるアウトリーチ活動は、誰でも手が届く距離感で、子供たちに「音楽」を届けてきた。わたしは2022年度のアウトリーチセミナーに参加する機会に恵まれ、今年度のプログラムが出来上がるまでのプロセスを見てきた。その時の様子を、文字の形に留めたい。
 今回のアウトリーチセミナー及びそのリハーサルは、7月16日、7月20日から7月23日の5日間にかけて行われていた。弦楽四重奏の形で子供たちにどのような音楽、そしてどのように届けていいのかという大きな問いに向けてリハーサルが始まった。
 どうすればいいだろう。とメンバーたちがブレインストーミングをしているなか、ヴァイオリン奏者である松原勝也先生がご指摘くださった「楽器紹介よりも自己紹介」という考え方が大きな指針となった。要は、「楽器」という括りに縛られず、演奏者その人の音楽を通じて聴衆たちと「対話」することが大事で、楽器を見せるのではなく、人が見えるようにいかに工夫できるのか、である。
 よって本番ではカルテットから入るのではなく、クラシックでありながらもジャズセッションの感覚でソロの即興演奏からデュオ、トリオ、そして最後にカルテットという形で、演奏者一人ひとりの性格が見えるような流れに決定した。ここでは「流れ」、というふうに表現したが、セッション全体もまたその通りで、まるで風や水のように、形式や枠組みなどに囚われず、自由のままに流れに身を任せた。「風は4拍子に吹かない」、と松原先生が仰ったように。言葉の枠組みから解放された自由さが、今回のアウトリーチセミナーが目指してきた主題でもある。
 いざ開演。冒頭のソロ即興演奏を通じて、メンバーたちがヴァイオリン、ヴィオラ、そしてチェロの音を重ねて解釈を試みた。その瞬間の思い、その瞬間しか存在しえない音楽を、静まり返った空間を切り裂き、小さな聴衆たちを音楽の冒険に誘った。さあ、こっちへきてごらん、と。このような召喚に応じて、われわれの小さな聴衆たちは頭をかしげたり、「これは一体何なんだ」とこっちへ疑問を投げてくるように、さまざまな表情を見せてくれている。
 疑問や驚きといった未知の楽しさに満ちている空間に、いつの間にモーツァルトが散歩しながらやってきた。ヴァイオリン奏者の安田沙織さんとヴィオラ奏者の岩澤なぎささんによる、《ヴァイオリンとヴィオラの二重奏曲ト長調》の第1楽章が始まる。

 甘美なメロディーを歌っているように、安田さんのヴァイオリンと岩澤さんのヴィオラによるデュオが幕を開いた。つづいてヴァイオリン奏者である松原先生がそこに「参戦」し、3人の演奏者でドヴォルザークの《三重奏曲ハ長調 作品74》を届けてくれる。チェロ奏者の神田尚己さんもそこに加わり、ベートーヴェン《弦楽三重奏曲変ホ長調 作品3》を演奏したあと、最後に待望のカルテット、全てのメンバーによるベートーヴェン《弦楽四重奏曲第12番変ホ長調 作品127》で演奏会の雰囲気が最高潮に達した。
 音楽は、波である。そして波は、次々と聴衆たちに押し寄せてくる。言葉を交わさなくとも、奏者も聴衆も、表情や呼吸または空気を通じて互いと語り合っている。
 帰り際に、小さな聴衆たちと大きな聴衆たちからの「すごく楽しかったね」「チェロ弾いてみる?」「また来ようね」と、ささやかな声が聞こえる。演奏会場から人は去っていき、余韻だけが残っている。

(インターン 王 涵宇/一橋大学言語社会研究科修士課程 観察レポートより)

室内楽アウトリーチセミナーの小学校アウトリーチのレポートはこちら

プロフィール

松原 勝也(ヴァイオリン)  Matsubara Katsuya
東京藝術大学在学中に安宅賞受賞。ティボール・ヴァルガ国際コンクール、クライスラー国際コンクール等で上位入賞。1989年~98年まで新日本フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターを務める。ソリストとして新日本フィル、東京フィル、東響などと共演。2001年よりNPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク/第一生命ホール主催の若い演奏家のための弦楽セミナー《アドヴェントセミナー&クリスマスコンサート》を、2011年より《アウトリーチセミナー》をプロデュース。第17回中島健蔵音楽賞、第55回文化庁芸術祭新人賞受賞。静岡AOI・レジデンス・クヮルテット、クァルテット・アーニマメンバー、長崎OMURA室内合奏団アーティステックアドヴァイサー、東京藝術大学音楽学部教授。
安田沙織(ヴァイオリン)  Yasuda Saori
3歳よりヴァイオリンを始める。第10・11回セシリア音楽コンクール弦楽器部門入賞。室内楽、オーケストラ等での演奏活動や、教育施設・福祉施設でのアウトリーチ活動に取り組むかたわら、幼稚園児、小学生を中心としたヴァイオリン指導も行う。これまでにヴァイオリンを柴香苗、漆原朝子、松原勝也の各氏に、室内楽を川崎和憲、菅谷早葉、市坪俊彦、植村太郎の各氏に師事。
東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部 器楽科を卒業。現在、同大学院音楽研究科 器楽専攻 室内楽研究分野 修士課程1年在学中。
岩澤なぎさ(ヴィオラ)  Iwasawa Nagisa
5歳よりヴァイオリンを始める。第28回かながわ音楽コンクール入選。第63回鎌倉市学生音楽コンクール3位、優良賞。成績優秀者による桐朋学園大学student concert出演。桐朋学園宗次ホール・オープニングコンサートシリーズにて清水和音氏と共演。ヴァイオリンを米納真妃子、前澤均、神代恭子、久保良治の各氏に師事。ヴィオラを鈴木康浩氏に師事。室内楽を菊地知也、鈴木康浩、水谷晃の各氏に師事。北鎌倉女子学園高等学校音楽科を経て桐朋学園大学音楽学部卒業。現在同大学大学院音楽研究科修士課程1年在学中。
神田 尚己(チェロ)  Kanda Naoki
成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科を経て、北海道教育大学岩見沢校音楽文化専攻管弦打楽器コースチェロ専攻卒。同校室内楽選抜演奏会等に出演。これまでにチェロを井戸聡、津留崎直紀、懸田貴嗣、石川祐支の各氏に、室内楽を長岡聡季等各氏に師事。