来日中のミロ・クァルテットによるアウトリーチが佃島小学校で行われました。この日はチェリストが事情により出演できなくなったため、急遽、クァルテット・エクセルシオの大友肇さんが代役を務められました。行われたアウトリーチは、これぞテッパンの「The Outreach」とも言うべき素晴しい内容でした。
音楽室で待つ児童の前に、にこやかな表情で現れた彼らは、おもむろに演奏を始めました。最初の曲は「弦楽四重奏曲第12番“四重奏断章”(シューベルト)」で、もうすでにそこに、音楽の空間が出現しました。演奏が終わると、自己紹介の後、第一ヴァイオリンのダニエルが楽器の材質や音の出る仕組みなどを説明。「この木の箱の中には何が入っているかわかるかい?キャンディかな?」と聞くと、児童たちは首をかしげて、でも彼が「答えは空気だよ。弓で弦をこするとこのブリッジを伝わって木の箱に振動が伝わり、中に入っている空気が振動して、みんなの耳に伝わって音楽が聴こえるんだ。コンピューターや電池が入っている訳ではないのに、こんなにきれいな音や大きな音が出るって、不思議だと思わない?」と言うと、児童は興味津津の様子で楽器を見つめていました。さらに弓の材質や演奏者の役割の話、各楽器の音域を音階で実際に聴き、児童たちは興味や関心を高めていきました。
次に、ヴィオラのジョンが「曲を分解してみるから、それぞれの楽器がどんな役割をしているか、聴いてみて。」と言い、まず大友さんがチェロパートを演奏します。ジョンは「とても単純な事をやっているけれど、音楽の鼓動やリズムを教えてくれる。でもこれだけだと、どんな曲か分からないね。」と言い、次に第二ヴァイオリンのウィリアムとヴィオラのジョンが加わります。「どう?楽しい?でも大事なものが抜けているね。」と言うと、児童たちからは「メロディ」と言う声が上がりました。「じゃあ、メロディを足してみよう。」と言って第一ヴァイオリンのダニエルが加わりました。
弦楽四重奏の仕組みが理解できたところで、ジョンは「モーツァルトと言う作曲家は楽しく作ることが好きで、メロディを色々な楽器に演奏するチャンスを与えたんだよ。だから、次は誰がメロディを演奏しているかを探すゲームをしよう。メロディを弾いている演奏者の後ろに立って皆に教えるんだよ。」と言って、ひとりの児童を選び、「弦楽四重奏曲第23番より(モーツァルト)」の演奏を始めました。次々と入れ替わるメロディに戸惑う児童。見ている児童たちも必死に指を指して教えますが、間に合いません。笑いとともに演奏が終わりました。児童の努力に対してミロ・クァルテットのCDがプレゼントされました。
ジョンは、「今度は、今の曲をみんなに分かるように、メロディを弾いている人が立って演奏するので良く見てください。難しいゲームだったという事が分かります。」と言って、実際に4人は演奏しながら立ったり座ったり、まるで演奏者同士が音楽で会話しているかのような様子を見せ、とても分かりやすく楽しいパフォーマンスでした。
最後は第2ヴァイオリンのウィリアムが「今度はベートーヴェン。メロディを追いかけて、良く聴いて。最初のヒントは、ヴィオラから。」と言い、「弦楽四重奏曲第9番“ラズモフスキー第3番”第4楽章より(ベートーヴェン)」を演奏しました。真剣な、迫力ある演奏に釘付けになる児童たちの目と聴き入る耳。誰一人としてよそ見をする児童はいません。集中した時間が流れました。
お返しに、児童たちから「いのちの歌」の合唱があり、一生懸命に歌う児童たちを見つめるミロ・クァルテットのメンバーたち。その眼差しはとても温かいものでした。この日のアウトリーチは、「クラシック音楽って楽しいものだよ。」と言うメッセージを、演奏者から児童たちの心の中にしっかり伝えた素晴しいアウトリーチでした。
TANサポーター 鈴木