【第1回 レポート】
昨年に引き続き、昭和音楽大学教授の有田栄先生をお迎えし、モーツァルトについての講座を開講しました。今回の大きな特徴として、講義だけでなく、体験を交えた4回の連続講座にしたという事があげられます。第2回は6月、その後、9月、10月と講座は続きます。
第1回は、弦楽器を取り上げ、講座の後には、ヴァイオリン体験も行いました。
最初は、有田先生の講義です。面白いエピソードを紹介したり、受講生に質問を投げかけるなど、モーツァルトが活躍した時代背景や父、レオポルトについてなど受講生の興味をひく話が続きました。
当時のオーケストラについての説明から、話題は弦楽器へ。管楽器や鍵盤楽器は、モーツァルトの時代、進化の途上だったのですが、弦楽器はほぼ今と同じ形をしていたという話に、受講生も驚いたり、なるほどとうなずいてみたり。ヴァイオリンの教則本も執筆した父、レオポルトを音楽家として、ヴァイオリニストとして、大変尊敬していたという話で講義は幕を閉じました。
10分間の休憩の後、いよいよヴァイオリン体験です。ヴァイオリン体験の講師は、トリトン・アーツ・ネットワークの若手育成事業のひとつであるアドヴェントセミナー(2010年度で終了)や室内楽アウトリーチセミナーを受講し、オーケストラでの演奏やヴァイオリン講師として活躍している鈴木由美先生です。
1丁のヴァイオリンを2人1組で使って頂きました。過去にヴァイオリンを弾いたことのある方は、受講生27名中、たったの2名でした。最初、多くの受講生は遠慮がちだったのですが、弓や本体を持つ頃になると、徐々に楽しくなってきた様子で、ペアになった受講生と構え方を見比べたり、補助講師に助言を求めたりと熱心に学んでいました。
ラの音、ミの音、と音を出していく内に、みなさんの聴きなじみのあるメロディが表れてきて、最終的には、モーツァルト作曲の「きらきら星」の合奏ができました。受講生はみな大変満足そうにされ、演奏への理解も増した様子でした。最後には鈴木由美先生が演奏するモーツァルトの「メヌエット」にうっとりとされ、今学んだよりもはるかに難しい指使いを、感動の眼差しで見つめていました。
【第2回レポート】
2回目となる「大人のためのクラシック入門講座」は、会場を信濃町の民音楽器博物館にうつし、ピアノをテーマに行いました。
民音楽器博物館さんのご協力を頂き、開館前の10:00から集合し、館長の上妻学芸員より、展示してあるクラヴィーア(鍵盤楽器)の説明を受けながら、実際の音色を聴かせていただきました。
クラヴィーアは、長い期間をかけ、中の構造が変化して、今のピアノのような広い音域で、大きな音が出せるようになった楽器で、その時代時代の楽器は、形、音色、音量など、どれもさまざま。中には、貴族が特注をした豪華な装飾が施されたものや、中国の庭園が描かれたものなど、見た目にも珍しく、貴重な楽器を見ることができました。演奏も、それぞれの楽器の特徴が感じられるような選曲で、より特徴や時代の雰囲気を感じることができました。
有田先生からは、ピアノの歴史とモーツァルトの活躍していた時代についてや、楽器の起源についてを、分かりやすく説明して頂きました。
その後、博物館の書庫、モーツァルトの自筆譜のファクシミリを見せて頂きました。
回を重ねるごとに、受講生もスタッフも顔見知りになってきて、また次回にみなさんとお会いする事が楽しみになってきました。
【第3回 レポート】
第3回のテーマは「モーツァルトと管楽器」でした。第1回の弦楽器、第2回のピアノに続いて、第3回では、管楽器をとりあげ、特に後半ではフルートを体験しました。
前半は有田先生の講義でした。管楽器の基本構造や進化の様子について、それからモーツァルトの作品のなかにおける管楽器の意味・役割について、解りやすく解説していただきました。調性が発達するにつれ、また、音楽を聴く場所が教会・宮廷から劇場・コンサートホールへと変わるにつれて、アーティストの要求が変化し、それに応じて楽器に対して、音程の正確さやパッセージの速さが要求され、その機能を獲得してきた進化の過程を知りました。フルート、オーボエ、クラリネットなどなどと解説が進むなかで、移調楽器、バセットホルン、フルダブルホルンなどこれまで聞いたことのなかった単語を知り、筆者には勉強になりました。
もう一つ頭に残ったことを紹介します。モーツァルトはパリ旅行の途中のマンハイムで管楽器に関心を寄せ、使い方を勉強してすぐさまパリ交響曲で初めてオーケストラの中にクラリネットを入れるなどという話です。天才モーツァルトと謂えども、創作活動のなかで常に新しいものを求め取り入れていたという話に、現代にも通ずる天才の努力に思いを馳せました。
モーツァルトはバッハ・ヘンデルを引き継ぎ、今なお現代人の心に生きる、そんなモーツァルトを、有田先生は「人々を繋ぐモーツァルト」とまとめのフレーズを紹介されました。
後半は“フルート体験”※です。
いきなりフルートを体験するのではなくて、ファイフ体験からのスタートでした。フルートより短く且つ軽いので扱いやすいからです。ファイフに少し慣れてきてから、いよいよ本物のフルート体験です。村松フルート製作所のご好意により人数分のフルートを準備していただき受講生全員がフルートを堪能することが出来たと思います。ファイフの方が易しいと感じた方、フルートの方が好きと感じた方、人それぞれでしたが、全員の方が音を出すことが出来たようでした。最後に全員で「チューリップ」を演奏。受講生は、ソラシ、ソラシと、シシララソーを分担、残りを講師の先生が分担して、アンサンブルが完成しました。
そのあと、講師のお二方の模範演奏で締めとなりました。フルートの音色を聞きながら、筆者はフルートに思いを寄せておりました。
※村松フルート製作所のご協力により実施されました。
【第4回 レポート】
5月、6月、9月と、楽しく解かりやすい有田先生のレクチャーに加え、実際にヴァイオリンやフルートの音を出してみたり、博物館でモーツァルト時代のピアノを見て、音を聞いてみたり・・・と、参加型のレクチャーに通って下さった受講生の皆様に、4回の連続講座の最後として、今回体験していただいたのは、コンサートのリハーサル見学と第一生命ホールのバックステージツアーです。
まず最初は、リハーサルの行われている午前中にホール楽屋口から入場していただき、大きな楽器などを運ぶ搬入用エレベーターに乗って建物の4~6階に位置するホールへ。クラシックファンの間でも特に音が良いと言われているホール二階席で、その日の午後開催される古典四重奏団のコンサートのリハーサルを見学しました。演奏されていたのはモーツァルトの弦楽四重奏曲です。
続いては、バックステージツアーに御案内しました。トリトンアーツネットワーク(TAN)のスタッフがガイド役。普段は一般のお客様が覗くことのできない、楽器庫、舞台裏通路、舞台袖の機材、楽屋、リハーサル室などを廻っていただきました。コンサートの「現場」を肌で感じていただけたでしょうか。
そして、遠くにスカイツリーものぞめるガラス張りの明るいホールロビーで、スタッフから、国際モーツァルテウム財団と第一生命との縁で実現した「モーツァルト愛用ヴァイオリンの展示会&コンサート」(於:第一生命日比谷本社)のお知らせがあり、12月に第一生命ホールで行われる「モーツァルト・ガラ・コンサート」を題材とした「コンサートができるまで」の解説も聞きました。
今回は有田先生のレクチャーはありませんでしたが、「聴衆が劇場に集まり、その中で作曲家や演奏家が育ってゆく―モーツァルトの時代も、現代でも・・・」という先生の締めの言葉が、一音楽ファンの私にも何か役割を与えられたようで、深く心に残りました。