クァルテット・ウィークエンド(SQW)シリーズに、2001年の第一生命ホールオープンから欠かさず出演しているクァルテット・エクセルシオ(以下エクQ)。
日本でプロのクァルテットとして生きていくのは本当に大変なことですが、キャリアを積まれて、クァルテットのひとつのロールモデルとなるエクQに、ぜひ若いクァルテットを紹介し、共演していただきたいとご相談して今回のシリーズがスタートすることになりました。第1回の次世代クァルテットとして選ばれたのは「クァルテット奥志賀(以下奥志賀Q)」。エクQ3人と奥志賀Q4人にお集まりいただき、お話を伺いました。今回から、3回に分けておおくりします。
エクQが次世代クァルテットとして奥志賀Qを選んだ訳と奥志賀Q世代から見たエクQ
――まずはエクさん、次世代クァルテットとして、奥志賀Qを選ばれた理由を教えてください。
吉田:若手の中では、それぞれのメンバーの名前は以前からよく聞いていました。小川響子さん、石田紗樹さんは、エクがファカルティを務めていたサントリーホールの室内楽アカデミーの受講生で。アカデミーでは受講生とファカルティがいっしょに演奏するのですが、石田さんは当時ヴァイオリンで受講していたので、西野さんが休養していた時には、ファースト・ヴァイオリンとして私たちエクの中で演奏してもらったこともあります。
会田:私は、大友さんが講師を務められた別のセミナーでごいっしょしています。
西野:それぞれ素晴らしいという評判は耳にはしていましたし、個別に会ってすごいなと改めて思うこともあり、私たちとしても、刺激を頂ければと思います。
――逆に奥志賀Qにとって、エクQは、どのような存在でしょうか。
小川:私自身は、室内楽アカデミーでエクの方々に先生として2年間クァルテットを教えて頂いて、その中で合わせの進め方から、音楽を作っていく方法まで、何から何まで教えていただきましたので、今回、一緒に弾かせていただけることをとても楽しみにしています。
石田:演奏はもちろん、お人柄の温かさも、こういう方々がクァルテットを糧として生きていかれる方々なんだ、と思いました。それから、これは共演させていただいた時に感じたことなんですが、個人のテリトリーがそれぞれにあって、それを重ねていくという感じのカルテットではなく、エクの方々は4人でひとつの大きな器を創られているような感じ。すごく長く続けていらっしゃる方々に加われたので、その大きな器に包まれながら心地よく弾けるように感じました。
――石田さんは、奥志賀Qではヴィオラですが、今でもヴァイオリンも演奏されているんですか?
石田:いえ、留学先にヴァイオリンを持っていっていないので、今はヴィオラしか弾いていません。私は不器用なので、同時にやるとヴィオラの音色を追求できないと思って、転向する時にヴィオラ1本と完全に決めて海外に行くことにしました。向こうでは、もちろん室内楽も勉強していますが、ソロを中心に学んでいます。
――ヴィオラを弾く時に、ファースト・ヴァイオリンの経験もあるのはいいですね。
石田:はい、ヴァイオリンだった頃からずっとヴィオラパートも弾いてみたいと思っていましたし、室内楽という点では、曲の組み立て方なども室内楽アカデミーで先生方にしっかり教わったので、ヴィオラに転向しても大変勉強になっています。アカデミーでの2年間の経験は、やはり大きく、貴重な時間でした。
大友:2年間、毎月、何かしらの機会がありましたからね。
西野:アカデミーで見てきて、一緒に演奏した上で思うのは、奥志賀のみなさんは、それぞれソロも素晴らしいのですが、さらにアンサンブルの能力があり、それを楽しんで演奏している。ですから、この奥志賀Qは間違いなくすばらしいだろうと。
会田:私は、クァルテットという存在を最初に知ったのが、エクQだったのです。東京クヮルテットでも、ハーゲン弦楽四重奏団でもなく、先にエクQでした。なぜかというと、最初にヴァイオリンを習っていた鷲見健彰先生のもとで、西野さんと吉田さんと同門だったのです。おふたりとも、もう卒業されていたのですが、西野さんは発表会にゲストとして出ていらして。この方は、卒業されて間もないけど、すでにプロとして活躍していて、クァルテット・エクセルシオとして活動されているんだよ、と聞いていました。ですから、ヴァイオリンを始めたばかりで、クァルテットとは何かということも知らないころから、「クァルテット・エクセルシオ」という名前は知っていました。
西野:何歳のころ?
会田:始めたのが5歳で、発表会が6歳ですね。その時のプログラムに、「西野ゆか」って書いてあって。まだ家にありますよ。だから、私が始めた時にすでにプロだった方たちと、まさかこうして共演させていただけるとは、という気持ちです。当時、ヴァイオリンをこんなに続けるとも思っておらず、いつの間にか続いたという感じだったので......。でも、きっといつかは一緒にと思っていて。私にとっては、原点に返るといいますか、とても嬉しいことです。
――すごく意味がある共演になりますね。会田さんがヴァイオリンを始めた頃に、クァルテットとして活動をはじめたエクと、こうして20年以上たってクァルテットとして共演するのですから。
黒川:クァルテットで、日本でずっとやっていらっしゃるといったらエクセルシオ。この誰もが知るクァルテットと、結成5年目の私たちが共演させていただくのは光栄です。
私たちは、奥志賀のアカデミーでいっしょに過ごした絆があり、その良さもきっとあるので、共演させていただくことで、それをさらに良くしていけるのかなと思うと、ワクワクします。大友先生にお世話になった飛騨のセミナーでは、室内楽を先生方と一緒に組んで、とても濃い3日間を過ごします。4、50分が2回くらいしかないリハーサルの中で、大友先生は、1回通してすぐに、いかに良くするか、何を目標にやるかを、ぱっと指摘して作っていく。そういった場面を聴講させていただいて、本当にすごいと思いました。出てくる音も、導いてくれるような音で、どうやったらこういう音が出るのだろうと。自分もチェロ奏者なので、もっともっと勉強させて頂けたらと思います。
奥志賀Q結成秘話?
――奥志賀Qは2014年結成と聞いていますが、もともと「小澤国際室内楽アカデミー奥志賀」の中で組んだクァルテットですね。
会田:奥志賀のアカデミーは、どのメンバーとクァルテットを組むかが行ってから分かるのです。2013年のアカデミーで、チャイコフスキーの弦楽四重奏曲第3番を演奏したのが最初です。その選曲も原田禎夫先生で、私は第1番が良いと言ったのですが、禎夫先生はそんな有名な曲はだめだと。
黒川:取り上げる曲は、すごい曲ばかりで。
会田:ドヴォルザークの第13番とか。有名どころを外してくるんです。それで、そのメンバーで2014年に「プロジェクトQ」のシューベルトの回に第15番で出なさいと、これも禎夫先生が決めました。
――その時に、奥志賀という名前をつけたのですか?
会田:そうです。名前をつけなければいけなかったのですが、なかなか大変で。カタカナの名前をつけても、まず自分たちが覚えられない(笑)。それで、日本人だから、日本語の名前はどうかな、と思って、奥志賀で結成したので「奥志賀」ってつけたいねということで、禎夫先生に言ったら、いいねと言ってくださって。でも奥志賀は地名なので、どうなんだろうと......。ちょうど小川さんと私がサイトウ・キネン・オーケストラに参加している時だったので、小澤(征爾)先生に聞こうとなり、禎夫先生が聞いてくださったんです。そうしたら「すごくいい、でも町の人にお伺いをたてよう」と、小澤先生ご自身が電話してくださったのだと思いますけど、聞いてくださったところ、「いいですよ」と言っていただいたので、晴れて奥志賀という名前をつけることになったのです。いろんな方の助けがあってついた名前です。
エク:なるほどね。すごく覚えやすい。
石田:奥志賀Qが初めて結成された時のアカデミーを、私はヴァイオリンで受講していました。だから、最初のチャイコフスキーを演奏した時からこのメンバーを知っています。
――その後は、どのくらいの頻度で活動していらっしゃるのですか。
黒川:最初の頃は、毎日あわせをしていました。
会田:すごく忙しくて。毎月本番があって、しかも違う曲で。
黒川:クァルテットの年という感じでしたね。それから、それぞれが留学したり、活動の幅が広がって、羽ばたいていきました。
会田:小川さんは、サントリーホール室内楽アカデミーでは違うクァルテットを組んでいましたし。
石田:2015年頃ですね。2つ掛け持つというのは、本当に大変だったと思う。特に、奥志賀Qでは、ヴァイオリンの会田さんと小川さんは、ファースト、セカンドを固定にしていないので。
会田:今回も、モーツァルトでは小川さんがファーストを弾きます。
――だから、エネスコはファーストが会田さんなのですか?
奥志賀:(爆笑)それは、エクさんからの指示ですよね?
(エクも爆笑)
クァルテット・エクセルシオ×クァルテット奥志賀
■日時:2019年3月9日(土) 14:00開演
■会場:第一生命ホール
■出演
クァルテット・エクセルシオ[西野ゆか/双紙正哉(ヴァイオリン) 吉田有紀子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ)]
*第2ヴァイオリンの山田百子が健康上の理由により出演できなくなりました。 代わって双紙正哉が出演いたします。
クァルテット奥志賀[会田莉凡/小川響子(ヴァイオリン) 石田紗樹(ヴィオラ) 黒川実咲(チェロ)]
■曲目
モーツァルト:弦楽四重奏曲 第16番 変ホ長調 K428 (クァルテット奥志賀)
ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第1番「クロイツェル・ソナタ」(クァルテット・エクセルシオ)
エネスコ:弦楽八重奏曲 ハ長調 Op.7
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