昨年、エル=バシャさんとのCD「フランク:ヴァイオリン・ソナタ、シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番」が発売されました。おふたりの出会いはいつですか。
戸田:実はもう15年ほど前。以来、機会があるごとに演奏させていただいています。昔から本当に尊敬するピアニストで、共演する度に学ばせていただき、また本当に毎回楽しい時間を過ごさせていただいています。
CDに入れた、フランクとシューマンのソナタを、今回のデュオ・リサイタルでも演奏していただきます。
戸田:シューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番は、エル=バシャさんと初めての演奏会でご一緒した曲でもあり、ふたりとも大好きなのです。それから何度も演奏しておりまして、CD録音の時も、まずこの曲からいこうと暗黙の了解で決まりました。フランクも何回かご一緒しています。このピアノは難曲中の難曲で、派手さが前面に出てしまう演奏が多い中、エル=バシャさんは、そういったことがなくて本当に素晴らしいなと、ご一緒する度に感服いたしまして。
確かにこのCDを聴かせていただいて感じたのは、情熱と冷静さの加減が絶妙なバランスだということ。おふたりとも、そのかけひきがうまくからみあっていますね。
戸田:エル=バシャさんは非常に知的な方で、昔は冷静で、あまり感情を前に出す演奏ではなかったように思います。ところが久しぶりにご一緒したら、感情や気持ちがとても自然に出ていらっしゃって、とても演奏しやすく、お互いのかけひきが、より楽しめる感じがしました。エル=バシャさんのような大家でも、芸術というものは時と共に変遷するものなのだなと思いました。彼は、シューマンが大好きだそうで、色々なピアノ作品からも当然学ばれているのだと思いますが、楽譜にも細かく指示が書かれていないような箇所からシューマンの感情のひだを読みとってこられるので、本当に芸術家だなと思います。
CDを作る時は、普通は録りなおしなどがあり編集するものなのですが、これは全部通して演奏会のように弾いています。それを何回か繰り返して録音しましたのでクタクタになりましたけど、より自然に聴こえるのかもしれません。そのように録音しようとおっしゃったのは、エル=バシャさんです。
プログラムの最初にベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ「春」を弾いて頂きます。
戸田:何百回も弾いてきた曲です。そうそう、エル=バシャさんはピアノパートを暗譜で弾かれるのです。フランクも昔、演奏会で暗譜でした。楽譜があると邪魔だと。すごいですよね。全部頭に入っていらっしゃる。ご自分で作曲もされることも関係あるかもしれませんが、暗譜に対する恐怖はほとんどない、とおっしゃっていました(笑)。
ヴァイオリンを習っているお子さんに何かアドバイスをいただけますでしょうか。
戸田:楽器は、まず厳しい練習が必要ですから、それが嫌でやめてしまうお子さまもいますし、親御さんも疲れてしまいますよね。でもまず、音楽を心から楽しみ、音楽が好きという気持ちがあって、続けられるのがベストではないかと思います。例えば、この世から音楽が消えてなくなってしまったら生きていけませんよね。音楽はそれほど素晴らしいものなので、技術的に上手になるとか、コンクールに向けてやる、ということだけではなく、音楽を愛していけるような状態でお勉強できると一番いいのではないかなと。
戸田さんご自身は、小さい頃、楽しくヴァイオリンを?
戸田:いや全然。4歳の頃ですが、知らないうちに始めて、気がついたら弾いていました。私の両親は音楽が本当に好きで、自分では演奏しませんでしたけど、家ではいつもレコードなどがかかっていて、そういう環境が自然だったのかなと思います。ただ練習はやっぱり厳しいし、毎日やらなければいけないですしね。やめたいと何百回も思いましたけど。
続けられたこつは?
戸田:本当に好きでないと続けられないですよね。やはり親子で時間があったら良い演奏会にたくさん行って、ご両親も楽しむことが一番自然でしょうね。良い演奏を聴くと、やはり音も、映像も心に残りますよね。私も、子どもの頃のことは、「綺麗だったな」など単純なことですけど残っています。そういうことが、すごく大事ですよね。子どもなので、演奏会の途中で寝ちゃったりもするのですけど。「すごいな」とか「ああいうふうになりたいな」とか、小さいことでもいいのですけど、きっかけが積み重なっていくといいですよね。